先日、製造業向けの業務システムを手掛けるベンダーの経営者に話を聞いた。生産ラインにカメラやセンサーを設置し、工程の正しさや作業時間、仕上がりの画像などをクラウドで分析することで、生産性や品質の向上を支援する、いわゆるIoTソリューションを提供している。
今でこそ引き合いのある商材になったが、経営者によると「リリースから数年間はさっぱり売れなかった」という。何が風向きを変えたのか。最も効果があったのは、製品名の変更だった。当初は「IoT」を打ち出す名称で売り出していたが、DXがブームになったことから、呼び方を「製造DXソリューション」に変えたところ、製造業のIT部門や品質管理部門ではなく、経営層からの注目が一気に高まった。最近ではさらに「AI」を加えたことで、問い合わせがいっそう増えた。ちなみに、製品に含まれる基本的な機能は「実のところ、最初のころからほとんど変わっていない」のだという。変わったのは中身ではなく、「どう呼ぶか」だった。
提供する価値に本質的な変化がないにもかかわらず、名付け方だけで売れ行きが大きく左右されてしまう現実に、日々開発に向き合うエンジニアの中には、悔しい思いを抱く人もいるだろう。しかし、ユーザーが今どんな悩みを抱えており、テクノロジーに対してどのような期待を抱いているかを突き詰めて考え、それに答えられるソリューションであることを示すわかりやすい名称を付けることも、また一つの大事な仕事であることは間違いない。
別のITベンダーはここ数年、受託開発から自社サービスの販売へ事業の軸足を移すことに腐心している。経営企画担当者に聞くと、取り組んでみてわかった一番の苦しみは「自社にはマーケティングの能力が圧倒的に不足していたこと」だという。品質や納期を守りながらコストを最適化するためのノウハウには自信がある。しかし、製品やサービスの価値を、正しく、かつキャッチーに伝えることが、まだ十分にはできていない。いかに優れた製品でも、しかるべき人に届かなければ、1円の収益にもならない。
私たちが発信する情報もまた、わずか一言のタイトルや小見出しの違いで、与える印象ががらりと変わる。メディア側の独り善がりになることなく、読者の方々が真に必要とする情報を、最適な表現でお伝えしていきたいと考えている。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
週刊BCN 編集長 日高 彰

日高 彰(ひだか あきら)
1979年生まれ。愛知県名古屋市出身。PC情報誌のWebサイトで編集者を務めた後、独立しフリーランス記者となり、IT、エレクトロニクス、通信などの領域で取材・執筆活動を行う。2015年にBCNへ入社し、「週刊BCN」記者、リテールメディア(現「BCN+R」)記者を務める。本紙副編集長を経て、25年1月から現職。