ITテッなライフ

<ITテッなライフ>12.手仕事と麻薬

2002/12/23 15:26

週刊BCN 2002年12月23日vol.971掲載

 手仕事って好きだなあ、と実感したのは、アジア各地の雑貨を扱う店でのことだ。蓮の花が浮かぶ大きな壷が置かれた玄関を入ると、モロッコ製のつま先が長いスリッパに履き替えてアジアの雑貨を見て回るのである。

 なかでも、ベトナム製のポシェットに惹きつけられてしまった。布に細かな美しいステッチが入っている。見惚れているとベトナムのお母さんたちが針と糸でチクチクやり、その横で子供たちがお母さんの顔と働く手をじっと見ている風景が浮かんだ。まるで体温のようなぬくもりも縫いこまれているみたい。

 こんな想像をさせる手仕事の力ってすごい。ここ数年、広告制作の現場でよく交わされる話がある。デザイナーがコンピュータを導入して以来、本来の仕事であるデザインを忘れているのではないか、ということである。ある広告代理店の会長はクリエイティヴ部のコンピュータ導入に、渋い顔を隠せない。

 というのも、経済的な理由ではない。デザイナーとオペレーターの境い目がなくなってきていることを危惧しているのだ。「手仕事でよいものを制作していたベテランでも、最近ではコンピュータがないと仕事ができないという。他のデザイナーが全員、コンピュータの前に座っていると、自分だけが取り残された錯覚に落ちるのかも…。ある意味、コンピュータは麻薬かも」と話す。

 クリエイターが「即、コンピュータの前」となってしまう理由に、短期間での納品を要求される仕事の絶対数が多いことがあげられる。おまけにいくつも仕事をかけもちしていると「いちいち考えてられっか!」な気分になり、「文脈を読む」とか「煮詰める」作業を忘れる、というより無視してしまう。体温を感じる制作物なぞ、できるわけがない。

 アジア雑貨に囲まれて人の顔や手を想像させるポシェットに惚れ惚れしていたら、心の布にチクッと「戒め」の針が刺さってしまった。あ、イテテッ。皆さん、またどこかで!(終わり)
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