六本木ヒルズを訪れるのは2回目。1回目はオープニングイベントの渡辺貞夫コンサート。2回目は週末の夜の映画。「マトリックス」を観るはずが、何故か「スパイ・ゾルゲ」。

 変更の理由は別にするとして、3時間に及ぶ上映時間も全く長く感じさせない見ごたえのある映画だった。

 内容は、ロシアのスパイであるリヒャルト・ゾルゲ(イアン・グレン)と新聞記者であった尾崎秀実(本木雅弘)の満州事変から終戦までを描いたもの。

 共産党員であるゾルゲは、ドイツ新聞の記者として来日。ナチスに入党したことから2重スパイともいわれた。

 彼は戦争回避を望んでいた尾崎から国家機密を入手していたのである。

 そこには彼のスパイ組織の仲間の1人、ロシア人と結婚した山崎淑子という、美人で英語が得意な女性が登場する。女優の小雪さん扮するその山崎淑子も、もちろん実在の人物である。

 私の友人によると、彼女は、ロシアのスパイ容疑でご主人が処刑された後、某大使館に長くお勤めになり、また、ご子息も海外でご活躍中だそうだ。

 混乱した政治や国家間の策略が尾崎の目を通して描かれており、そこでは国家も企業も、一部の上層の男の人達で動かされており、女・子供は真実を知らないまま生活していた。

 さて、そんな映像のバックに流れてくるのがクラシック音楽の数々。

 ベートーヴェンの「英雄」や「田園」。池辺晋一郎の交響曲第5番「シンプレックス」や交響曲第6番「個の座標の上で」。武満徹の「弦楽のためのレクイエム」。

 篠田正浩監督は平和を愛した天才作曲家、武満徹とも深い交流があったことが良くわかる。

 私は、邦楽作品である沢井忠夫作曲の「鳥のように」と長沢勝俊作曲の「颯濤(さっとう)」という曲が思い浮かんだ。「鳥のように」は箏のソロの曲で、国境のない自由な空を飛ぶ鳥が雄大かつリズミカルに表現されており、「颯濤」は「祈り」の章の笛と太鼓の二重奏。太鼓奏者は何種類かの鐘を使用し、精神性の高い世界を構築している曲である。