旅の蜃気楼

「風雪を越えて」

2004/05/03 15:38

週刊BCN 2004年05月03日vol.1038掲載

▼書籍の厚みのことを束(ツカ)という。たて19.5cm、よこ13.5cm、束3cmの本に人生81年「大塚実の歩み」が凝縮した。経営者歴は42年8か月。長い歴史だ。創業は1961年。ときの社員数は3人。現在は6222人。売上高は3165億円、経常利益は84億円。東証一部上場企業。すばらしい成功者だ。大塚さんはこの3月の株主総会で、相談役名誉会長に就任した。これで創業から身につけた取締役の「よろい」を脱いだ。どんな「よろい」なのだろうか。見ることはできない。が、その束の中に「よろい」をかい間見ることができる。

▼例えば、140ページに、「打倒市村」とある。リコーの総大将、市村清の鼻をへし折ってみせる、という宣言だ。実に激しい。180ページには、大不況のなかで八方塞の苦戦が続くなか、「困難を味方にする」と全身を震わせて知恵を絞っている。激しい形相であったろう。最後のページでは一番好きな言葉、「大志を抱き、精根を傾ける」で束を納めている。これを口ずさむと、心が燃えてくるという男なのである。自分史『風雪を越えて』を上梓した。エネルギーがほとばしっている。(本郷発・笠間 直)
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