深夜の車窓 寝台列車再考

<深夜の車窓 寝台列車再考>5.月明かりと北斗星

2005/03/07 15:26

週刊BCN 2005年03月07日vol.1079掲載

 青森駅では乗務員も交代する。ホームで待機する交代の車掌は、「夏と同じダイヤで、冬も運行するというのがすごい」と、まるで他人事のように言う。特に今年は例年に増して雪が多いため、苦労が多いとか。青森からの乗客は3人。乗車して少しすると、車掌が個室の鍵を持ってくる。革のキーホルダーがついた昔ながらの鍵だ。

 雪に構内の照明が反射して眩い青森駅の構内を過ぎると、ぼんやりとした雪明りの世界になる。川端康成の「雪國」の通り、本当に「夜の底が白くなった」。

 車窓にはサラサラと雪が吹き付けられる音。ときおり踏み切りの警報機の音が高くなり低くなり通り過ぎる。それ以外の音は、全て雪に吸収されていく。レールの継ぎ目の音もどこか遠くに聞こえるようである。「吹雪か」と思ったが遠くの家の灯りが見える。まもなく月が出て、一面の雪景色が輝き出した。窓から上を見上げると星も見える。窓に吹き付けられる雪は、列車が舞い上げた雪なのだ。

 先日、明け方東京で地震があった。驚いて飛び起きたが、こうして寝台列車に乗っていると、常に震度3くらいの揺れを感じている。窓外の、美しい深夜の雪景色に吸い込まれているうちに眠れなくなった。いけないと思いウイスキーのポケット瓶を取り出したが、それでも眠れない。このままではカラになるまで飲んでしまいそうなので、早々に止めて目を閉じた。ときおり駅に停車し、発車の振動でまた目が覚める、というのを繰り返す。

 朝、早く目を覚ます予定である。北斗星には食堂車「グランシャリオ」が連結されている。夜中に乗ったので、ディナータイムもパブタイムも利用できなかった。ぜひとも朝食には利用したい。そのためには、ここで1人で飲み明かすわけにはいかないのである。(今賀 至)
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