▼ある歴史家曰く、「近代以前、多くの人が一度に命を失う要因は、天災と戦争だった。近代以降、これに事故が加わる」。人は〝より多く、より速く〟運ぶ手段を求め続けてきた。そしてテクノロジーの発達は〝大量輸送時代〟の到来をもたらした。人は利便性と快適さを安く手に入れた。しかし、その輸送手段の安全性が損なわれた時、その代償はあまりにも大きい。

▼兵庫県尼崎市のJR福知山線の脱線事故は、100人近くもの尊い人命が失われ、けがをした人も450人を超えるという大惨事となった。普段通りの日常が一転して悲劇になる。なぜ、このような大惨事が起きてしまったのか、犠牲者や残された家族の無念さはどれほどか。

▼大きな列車事故が起こるたびに、安全性の強化が着々と図られてきた。1951年、当時の京浜線桜木町駅(横浜市)構内で106人の死者を出した列車火災事故。このあと非常ドア開放装置の設置と火災に強い車両への切り替えが進んだ。62年の常磐線三河島駅構内での多重衝突事故。これを教訓に自動列車停止装置(ATS)が導入されるようになる。翌63年の横須賀線鶴見駅(川崎市)の多重衝突事故は、脱線とその防止策の研究のきっかけになった。

▼帰らぬ人となった肉親のもとに駆けつけた人が、「あかんかった」と泣き崩れる姿をニュース映像で見た。亡くなられた方のご冥福を祈るとともに、事故原因を徹底的に究明し、2度とこのような惨事が起こることのないよう、必ず安全対策の強化に結びつけてほしい。