【奥多摩発】梅の季節がやってきた。梅は匂いがすてきだ。東京の西の端に「青い梅」と書いた地名がある。青梅市だ。この地名の通り、“梅づくし”だ。JR中央線・立川駅から青梅線に入る。日向和田駅で降りて、15分ほど歩くと梅の公園に着く。「梅祭り」は2月24日から始まる。日向和田駅から2つ先の二俣尾駅までのおよそ4キロが梅の郷だ。この間に神社仏閣、公園や民家にある梅は2万5000本に及ぶという。

▼開花には一足早い、2月12日の休日に散策した。このあたりの山域を奥多摩という。電車から降りると、のびのび感が満喫できる土地だ。二俣尾駅には、吉川英治記念館がある。吉川英治は昭和19年3月、疎開のためにこの地に住む。当時は吉野村といった。彼はここで『新・平家物語』を執筆した。書斎がそのまま残っている。机の上には文鎮で押さえた原稿用紙がある。その上に、ペリカンの万年筆が置いてある。

▼机に向かってみたいと思ったが、その部屋には入れない。だけど、心はペリカンを手にしている。こうした瞬間は、“うっとり”する。(その気分を思い出しながら、今、原稿を書いているのだが、吉川英治のようには文章が流れない。なぜだろうか。「そうだ。キーボードだからだ」としておこう)。記念館の書斎から見上げたところに、山を背景にした愛宕神社が見える。のどかだ。行ってみた。急な石段を登るとお社がある。息を切らせて社の前に立つ。柏手を打って、文章がうまくなるようにとお願いをした。ただ、愛宕さんは火の神様だから、お願いの筋が違うようだ。ここから愛宕の奥宮まで歩いた。神社から日ノ出山に向かう尾根筋に奥宮がある。その尾根筋には、驚いたことに四国八十八番札所の石塔が立っている。神社の近くに即清寺がある。この石塔は即清寺に始まって奥宮まで続く。40分ほどもかかる山道に、八十八本の石塔を持ち上げたわけだ。明治維新の慶応のとき、乱世を憂いた即清寺の住職が、思い立って造ったものだ。この力業が有名でないことに感動した。日向和田の里には紅い梅がちらほら咲いていた。開花は例年3月に入ってから。お出かけになってみては、いかがですか。(BCN社長・奥田喜久男)