旅の蜃気楼

文化の香りする根津をそぞろ歩き

2008/10/13 15:38

週刊BCN 2008年10月13日vol.1255掲載

【根津発】拳という字は「こぶし」と読むんですね。俳優の緒形拳さんが10月5日、亡くなった。そのニュースを7日、朝のラジオで聞いた。驚いて、さっそくググッてみた。ウィキペディア経由で公式ブログに入ったら、すでに哀悼の意を表する書き込みがいくつかあった。逡巡したが、私も書き記しておいた。それには自分なりの密かなワケがある。50代になった頃だ。知り合いに昼食を誘われて、世田谷の寿司屋でご馳走になったことがある。帰る段になって、お寿司を握ってくれた店の主が「お客さん、似てますねえ。雰囲気が似てるんですよ。そこに掛かっている額の絵を描いた人と…」。その額の絵は緒形拳さんが描いたものだった。個性的というか、アクが強いというか、その程度しか知らなかったが、名優であることは知っていた。店主の一言は唐突だったので、驚いた。けれども、そのとき以来、人から「似てますね」と言われるようになった。「そんなことありませんよ」と謙遜していたものの、そうかなと、自分でも思うようになってきた。そんな矢先の悲しい知らせにショックを受けた。

▼拳さんの訃報を聞くまでは、今回の「旅の蜃気楼」は根津神社の大祭の様子でも書こうと思っていた。9月22日に行われた祭りのことだ。掲載した写真はその時のもの。秋は神社にとってとても大切な季節で、新穀を穫り入れる行事が全国で繰り広げられる。伊勢神宮ではこの時期に神嘗祭(かんなめさい)が執り行われる。10月に入ると18-19日には「根津・千駄木下町まつり」が開かれる。

▼根津はこのところ、ハンドクラフトの若い人たちが集まってきている。“へび道”という藍染川の暗渠にできた裏道のくねくね道沿いに、ぽつりぽつりと小さな革細工屋、画廊、居酒屋、Tシャツ屋、古着屋が姿を現すようになった。古くからある藍染屋の筋に、若い人たちが店を作り始めたのだ。この地は東京藝術大学が近くにあって、もともと文化的な匂いがしていた。が、このところ、こんな店がとみに増えている。原宿のキャットストリートと、巣鴨の地蔵通りの中間世代の街だ、と記しておく。天高い青空の下、谷根千めぐりでもどうぞ。(BCN社長・奥田喜久男)
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