「ここ十数年で『電子書籍の時代がくる』と何度も言われ、そのたびにこうしたテーマで原稿を書いた」と著者が前書きで記しているように、わが国で電子書籍が話題になり、出版や新聞の業界が騒々しくなったのは一度や二度ではない。

 今回のブームは、米国から火の手があがった。火つけ役はアマゾンの「キンドル」である。日本でぱっとしなかったソニーの電子書籍リーダーが米国では健闘し、やがてアップルのiPadが発売されて、電子書籍は一気に花開いたかにみえる。だが、本当にそうだろうか。著者は出版物について、「多くは印刷版を売るための『話題づくり』で、電子書籍単体で多くの利益が出ているわけではない。電子書籍は新奇な一種の『客寄せパンダ』で、印刷版のマーケティング戦略のためのものが多い」との疑念を抱きつつ、ビジネス拡大の可能性を多方面から分析している。

 日本で電子書籍が普及するうえで大きな壁となっているのが「再販制度」だ。米国では一物二価がまかり通るが、日本は再販制度によって書籍の定価が守られている。その他もろもろの制約条件があり、そうすんなりと電子書籍が定着するとは思えないというのが著者の見解である。

 アマゾンに対してアップルはどんな戦略で立ち向かったのか、グーグルはどの方向に進もうとしているのか――。綿密な取材とデータに基づいた分析は、わかりやすいし、電子書籍の“これから”を知る重要な手がかりを示唆してくれる。(止水)


『電子書籍の時代は本当に来るのか』
歌田明弘 筑摩書房刊(820円+税)