BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『榊原英資の成熟戦略』

2014/09/04 15:27

週刊BCN 2014年09月01日vol.1544掲載

ゼロ成長時代を謳歌しよう

 1990年代以降の「失われた20年」と呼ばれた時期、日本経済に対する国内外の評価は激変した。成長を止めた日本経済に対して、今も多くのメディアが「停滞」とか「閉塞」という表現を使っている。それは「低成長に入った日本は、本来あるべき姿ではない」という感覚があるからだろうと著者は指摘する。

 しかし、日本は本当に停滞の状況にあるのだろうか。経済成長率が低い国は日本だけでない。2012年のイギリスの成長率は0.25%、ドイツのそれは0.90%だ。日本の場合、それまでの経済成長が急だったことに加え、アジアには日本と入れ替わるようにして成長率が急上昇している国がいくつもあることから、相対的に停滞しているようにみえやすい面があるというのだ。結局のところ、日本経済は停滞しているのではなく、成熟しているのだと著者は結論づける。そして、成熟した日本で生活するわれわれは、どんな生き方をするのがいいのかを指南してくれる。端的にいえば、「過去を懐かしむのではなく、大人としての自覚をもって今の生活をエンジョイすればいい」ということらしい。

 歴史を振り返れば、江戸時代がすぐれた教材になるという。江戸時代の前半150年は、高度成長を果たしてきた。やがてピークにさしかかり、元禄時代に入ると、井原西鶴などに代表される上方文化が花開いた。これを現代の日本に照らせば、たとえ成長が止まったとしても、すでに日本は十分に豊かな国なのだから、悲観することはまったくないというのが著者の見解である。(仁多)


『榊原英資の成熟戦略』
榊原英資 著
東洋経済新報社 刊(1400円+税)
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