BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『下りのなかで上りを生きる』「不可能」の時に「可能」を見つけろ

2014/04/17 15:27

週刊BCN 2014年04月14日vol.1526掲載

逆境を「楽観力」で切り抜ける

 著書『がんばらない』で多くの人たちの共感を呼んだ鎌田實さん(諏訪中央病院名誉院長)が、逆境にある人こそ可能性を開くことができると説いている。キーワードは「楽観力」。深刻で悲惨な状況なのに、本人は「何とかなるさ」と気にしない。こんな人には幸福の扉を開く力があるという趣旨である。

 チェルノブイリやイラクの救援活動を続けている著者は、東日本大震災の被災地にも精力的に足を運んでいる。避難を余儀なくされたシガさんのおじいちゃんとおばあちゃんの夫婦。膝の悪いおばあちゃんは避難したが、おじいちゃんは家にとどまった。孤立した集落で、とんでもないことが起こった。津波で流れ着いた何十頭ものブタが、食べ物を求めて、庭や家を荒らしに来た。「おじいちゃんとブタとの闘いはすごかった」と、おばあちゃんは笑いながら言う。鎌田医師は、巡回診察に来て笑ってはいけないと思いながら、ついつい大笑い。この楽観力はすごい。

 諏訪中央病院の緩和ケア病棟では、時々、カフェを開くようになった。これが大成功。患者と家族とお見舞いの人たちと看護師と医師が、おしゃべりをするようになったのだ。すると、近々死んでいく人の集まりなのに、自分の絶望を横に置いて、誰かのことを心配する人が何人も出てきた。著名な女性アルピニストの田部井淳子さんは、腹膜がんで余命3か月と告知されたのに、「気にしないで山に登る」と宣言して、実行したそうだ。楽観力は、やっぱりすごい。(仁多)


『下りのなかで上りを生きる』「不可能」の時に「可能」を見つけろ
鎌田 實 著
ポプラ社 刊(780円+税)
  • 1

関連記事

<BOOK REVIEW>『すべては社員のために「がんばらない経営」』

<BOOK REVIEW>『アナログコミュニケーション経営』