BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『四次元時計は狂わない』

2015/01/22 15:27

週刊BCN 2015年01月19日vol.1563掲載

日本はまだまだ大丈夫

 「四次元時計」という、興味を引くタイトルに誘われて手に取った。中味は、著者が「文藝春秋」に書き続けた巻頭随筆のおよそ3年分をまとめた構成になっている。連載の始まりは2011年5月号なので、東日本大震災が発生したすぐ後からということになる。

 震災直後、日本中がパニック状態に陥りつつある状況にあって、著者は「日本はまだまだいける国だ」というメッセージを発信しようとした。といって、根拠のないカラ元気を勧めようというわけではない。「私はもともと週刊誌の取材記者が出発点だったから、取材して書くことが本性となっており、筆先三寸、舌先三寸で人をまるめ込むようなことはしたくないと思ってきた」と宣言するように、このエッセイ集は自らが取材した事柄がまとめられている。

 例えば、本のタイトルにもなっている「四次元時計」の章を開いてみると──。日本でいま世界最高の時計がつくられつつあるという。光格子時計と呼ばれる、世界で最も精確な時計だ。なんと100億年に1秒しか狂わないそうだ。現在のところ、世界標準時刻を刻むのに用いられているのはセシウム原子時計だが、その1000倍も精度が上がるという。いま日米欧で次世代世界標準時間の基準となる新しい原子時計づくりの激烈な競争が始まっている。そのなかで日本の光格子時計がトップを走っている。すばらしいではないか。

 科学をはじめ、古代史、近代史、医療など、多彩な分野で“立花隆ワールド”が展開されている本である。(仁多)


『四次元時計は狂わない』
21世紀 文明の逆説
立花 隆 著
文藝春秋 刊(800円+税)
  • 1