BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』

2015/12/10 15:27

週刊BCN 2015年12月07日vol.1607掲載

大破局からの再興

 例えばパンデミックによって、あるいは核戦争によって、はたまた大災害によって人類の大多数が地球上からいなくなったとき、生き残った少数の人間たちはどのようにして生きていくのか。備蓄されている化石燃料や食料のおかげですぐさま自給自足を強いられることはないだろうが、放射能汚染や腐敗、火災、洪水などによって、やがては収穫と生産を行わなければ生きていけなくなる。科学文明の恩恵を受け続けてきたわれわれは、石器時代からやり直すことはないだろう。しかし、現代社会では人間の知識は広く分散し、社会を動かし続けるプロセスを十分に知っている人は一人としていない──。

 こんなふうに書くと「SF?」と思われるかもしれないが、著者が「文明再起動のための青写真」「文明の基礎に対する入門書」と表現する通り、本書は完全なノンフィクションであり、壮大な思考実験の成果である。最初に文明の残滓に頼っていられる猶予期間に何をしなければならないかを説きながら、食料、とりわけ農業について多くのページを割いている。そして、衣服、物質、材料、医薬品、動力と輸送、コミュニケーション、応用化学、時間と場所を知る技術という順序で、科学文明を俯瞰していく。

 もちろん、350ページに満たない紙幅ですべての人智を説明することはできない。しかし「科学的理解を実用化していくことが技術の基本」という考えにもとづいて、これまで人間が得てきた文明を大破局後の世界で蘇らせようとする試みは、見事に成功している。(叢虎)


『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』
ルイス・ダートネル 著
東郷えりか 訳
河出書房新社 刊(2300円+税)
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