思想を追い求めるための孤独

 作家・森博嗣は「隠遁している」と思われているらしい。作家だから一日の大半が自由時間なのは当然だが、どこに住んでいるのかを公にせず、編集者との連絡はメール。外泊や外食をせず、買い物は95%が通信販売で、電車には2年半乗っていないという。本書は、そんな森が自身の経験から説く創造的な孤独の思考実験である。「孤独のススメ」ではなく、「孤独にはなかなか捨てがたい価値がある」を語っているのがミソだ。

 森は“隠遁”はしているが、もちろん社会との接触がないわけではない。年に数回は友人たちが訪ねてきて楽しい時を過ごし、研究テーマについてはネットで議論もする。しかし、こうした行動を生んでいるのが彼の“創造のための孤独”だ。

 肝心なのは孤独礼賛に陥っていない点。友人がたくさんいて楽しいこと、仲間と楽しく仕事ができるのが本当に楽しいと感じれば、それは皮肉ではなく「大変幸せな人生」と評価する。それでも、一人でいることが好きな人間もいる。それを「さびしいヤツだ」と指さすことが間違いだ、と指摘するのだ。人それぞれに生きる道があり、求めるものは異なる。そして、両者は共存できるはずだ、と説く。

 森は、「もし自分の人生を有意義にしたいのならば、それには唯一必要なものがある。それが自分の思想」と書き、思想を得ることができるのが孤独の価値だとする。「やる気がない」から一人でいるのは、孤独ではあっても仮死状態。絶えず思想を求め続けていくために自分を孤独の状態に置くのが、彼の“積極的孤独”なのだ。(叢虎)


『孤独の価値』
森 博嗣 著
幻冬舎 刊(760円+税)