BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『金剛の塔』

2019/06/26 09:00

週刊BCN 2019年06月17日vol.1780掲載



時代を超え受け継がれる技術

 聖徳太子建立七大寺の一つ「四天王寺」。日本仏教の隆興を支え、幾多の時代を超えてきた寺院の姿は力強くも美しい。天高くそびえる五重塔はその地の象徴として多くの民に威厳をもたらしたことだろう――。

 四天王寺の五重塔といえば日本を代表する仏教建築だ。現代でも通用するすぐれた耐震技術を採用し、そのコンセプトは東京スカイツリーにも受け継がれている。

 しかし、火と雷は木造の弱み。約1400年という歴史の中、四天王寺は落雷や戦火に見舞われ、焼失している。しかし、何度崩れ落ちようと四天王寺は不死鳥のごとく甦る。古の匠の技術を脈々と受け継ぐ宮大工たちが都度甦らせるのだ。

 「金剛の塔」は四天王寺とその五重塔を建立当時から守り続けてきた宮大工たちの活躍を描いた短編集。ハウスメーカーに勤めていた著者が、大阪人らしいユーモアを交えて書き上げている。飛鳥、平安、戦国それぞれの時代で五重塔再建に奮起する男たちの背中が読者の心に熱く迫る一冊だ。(万)
 


『金剛の塔』
木下昌輝 著
徳間書店 刊(1700円+税)
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