サイバー犯罪がもたらす真の脅威

 サイバーセキュリティ製品を扱う主人公のショウは、「僕は殺される」というメッセージを残して失踪した親友・サクを探していた。ある日、友人から紹介された仕事を進める中で、異様な姿の女性と出会う。サクに関する情報を持つ彼女との出会いをきっかけに、やがてサクの真実にたどり着く。

 サイバーセキュリティを題材にしたクライムノベル。著者は現役のサイバーセキュリティエンジニアだ。登場人物や彼らが属する企業はもちろん架空のものだが、セキュリティ製品の技術やセキュリティに関する事象などについては実在するものを交えてわかりやすく記されている。IT業界に属する人であれば、リアリティを持って物語を楽しめるはずだ。序盤は個性豊かなキャラクターによる軽妙なトークが印象に残るが、そこからは全く想像もつかない展開がラストに待ち受ける。

 昨今、サイバー攻撃による企業・団体の情報漏えい被害が後を絶たない。「サイバー攻撃は情報漏えいを起こすもの」として意識が固定化されてしまいそうだが、本当に脅威となるのは、社会インフラを狙った攻撃だろう。サイバー攻撃によってその機能が停止してしまうと、人々の生活に大きな影響を及ぼし、場合によっては命にかかわる事態にまで陥りかねないからだ。作中の「今俺たちが住んでいるのは、ハッキングで人が死ぬ世界なのだ」という一文は、サイバー脅威の真に迫り、心に重く響く。(宙)
 


『その色の帽子を取れ -Hackers' Ulster Cycle-』
梧桐 彰 著
KADOKAWA 刊(1300円+税)