BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『現代思想入門』

2022/05/27 09:00

週刊BCN 2022年05月23日vol.1923掲載

世界の見方を広げる

 デリダ、ドゥルーズ、フーコー。いわゆる「ゼロ年代」に学生時代を過ごした記者にとって、馴染みのある名前である。当時、彼らの現代思想を基にしたさまざまな現代批評が流行していて、それに感化された記者も原典や入門書をいくつか読み、ろくに理解もしていない頭で、自分なりに考えをめぐらせていた記憶がある。
 

 著者が「入門のための入門」と評する通り、本書は現代思想のフレームをざっくりと紹介している。記者のように過去に触れたことのある(けれども理解できていない)人間にとっては、懐かしさと共にあらためて認識を深める機会になるだろう。初めての人にとっては、新鮮な驚きを感じられるはずだ。

 「秩序」と「逸脱」。本書ではこのキーワードを使って、現代思想を解説している。筆者の言葉を借りれば「きちんとする方向」へ世の中がどんどんと進んでいる今だからこそ、秩序から逸脱することの意味を問い、現実を捉え直すことは価値のある行為と言えよう。

 思想は人々の暮らしを直接的に豊かにすることはないだろう。それでも、世界の見方が広がることで、人生で抱える息苦しさを和らげることはできるかもしれない。ビジネスに浸った頭を切り替え、思索に耽ることも、たまにはいい。(無)


『現代思想入門』
千葉雅也 著
講談社 刊 990円(税込)
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