BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『旅する漱石と近代交通 鉄道・船・人力車』

2022/12/16 09:00

週刊BCN 2022年12月12日vol.1949掲載

文豪の見た近代交通

 日本を代表する文豪である夏目漱石は、1867年に生まれる。その翌年には元号が「明治」へと変わり、文明開化の時代が始まる。漱石の人生はちょうど日本が近代国家へと成長していくのと時間をともにしている。

 本書は、日記などを参照しながら、漱石が近代日本の交通の発展をどう捉えていたかを解説する。この時代は人力車や馬車の普及だけでなく、自転車や鉄道、蒸気船、自動車が出現し、交通手段が様変わりした。漱石はそうした新たな乗り物に強い関心を持ち続け、飛行機の曲芸飛行を見学していた記録も残っている。

 漱石というと、胃弱でいつも書斎にこもっているようなイメージがあるが、実際には活動的で旅行好きだったという。学生時代に留学したロンドンでは、小柄な漱石は肩車されながら行事を見学することもあったいい、初めて見る風物を鋭い視線とユーモラスな語り口で言葉に残している。

 現代では発達した交通網を使って、気軽に日常の生活圏を離れて旅行できるが、当たり前に存在する乗り物がまだ真新しかった時代の人々の驚きを、言葉の達人・漱石を通して味わってみてほしい。(石)
 


『旅する漱石と近代交通 鉄道・船・人力車』
小島英俊 著
平凡社 刊 1034円(税込)
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