BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『安倍晋三 回顧録』

2023/05/26 09:00

週刊BCN 2023年05月22日vol.1969掲載

政治史料にとどまらない要素

 昨夏、安倍晋三氏が銃殺された際、SNSなどで「安倍氏によるオーラルヒストリーが失われることが残念」との声が多く上がった。日本憲政史上最長の政権を樹立し、集団的自衛権の行使容認、TPP、特定秘密保護法など、国内世論が大きく分かれた政策を実現させた一方、森友・加計問題に代表される疑惑にさらされた安倍氏。当人の肉声による振り返りは、政治史料として大きな意味を持つ。

 回顧録の中身に関しては、当然ではあるが当事者の視点によるものであり、慎重かつ多面的な検証が必要だ。ただ、それを差し引いても、政策判断の裏側で安倍氏がどのような思考を有していたかをうかがい知れることは、政治をより深く理解することにつながるだろう。

 所々で出てくる小話のような話題も興味深い。特にイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相(当時)から自民党総裁戦における自身の優勢を伝えられた安倍氏が発した「(イスラエルの対外情報機関である)モサドから太鼓判を押されても」という言葉には笑いを禁じ得なかった。このようなユーモアセンスもまた、安倍氏が人を惹きつけた理由であったのかもしれない。その意味では、単なる政治史料にとどまらない要素が本書にはある。(無)
 


『安倍晋三 回顧録』
安倍晋三 著
橋本五郎 聞き手 尾山 宏 聞き手・構成 北村 滋 監修
中央公論新社 刊 1980円(税込)
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