店頭流通

中古ソフト販売に判決 共存共栄の道を探れ

2002/05/13 16:51

週刊BCN 2002年05月13日vol.940掲載

 「もう中古ゲームソフトの販売で、後ろめたい思いをせずに済む!」――。4月25日、最高裁判所は、中古ゲームソフトの販売を認める判決を下した。この判決は、家庭用ゲームソフトだけで終わらない影響力をもつ。コンピュータソフトウェア著作権協会の久保田裕専務理事は、「家庭用DVDやパソコン用ゲーム、ビジネスソフト、音楽CDなど、今回の判決はすべてのデジタルコンテンツに当てはまる」と指摘する。判決のポイントは、「公衆に提示することを目的としない」ソフトは、中古販売できるとした点。多額の資金を注ぎ込んだ映画やゲームソフトでも、「個人で楽しむのが目的」であれば中古販売ができる。(安藤章司●取材・文)

 映画は、巨額の投資を回収しなければ採算が合わない。このため、映画にはメーカーが流通を制御する「頒布権(はんぷけん)」が特別に認められている。頒布権のある映画は上映期間が終わった後、ほかの映画館へ中古品として払い下げできない。中古流通を認めると、映画という商品がメーカーの手から離れ、たちまち制作に費やしたコストが回収できなくなってしまうからだ。(11面参照)映画に負けないほど先行投資をしたゲーム開発費を、たった1回の販売(新品出荷時の卸売り)だけで回収するのは無理。たとえ中古販売を認めるとしても、中古として売れた時点で何らかの収益をメーカーが得られる仕組みが必要だ。そうでないと、劣化しないデジタルコンテンツが半永久的に流通し続けることになる。この間、メーカーはびた一文も利益を手にできない。おかしいのではないか――。これがメーカー側の主張だ。

 家庭用DVDや音楽CD、パソコン用ソフト、美少女ゲーム、アダルトDVDなど、劣化しないデジタルコンテンツの制作者(メーカー)は、多かれ少なかれ、中古販売に同様の懸念を示す。一方、今回の訴訟で販売店側を代表する上昇の金岡勇均社長は、「自由な流通形態があればこそ市場が伸びる。メーカーが自由な流通を束縛すれば、途端に市場は縮小する。所得がない子供でも、中古流通の仕組みがあれば、売買差益によって経済的なハードルが低くなる。ゲームで遊ぶという体験を子供のころにもてば、大人になってもゲームを消費する。中長期的な市場創出の努力が必要」と話す。

 ゲーム販売店とは業態が異なるパソコン販売店も、おおむね今回の判決を支持する。九十九電機は、「同じ販売店として、メーカーの流通に対する支配に一定の制約がかかったという点で評価したい」。T-ZONE.は、「パソコン用の中古ゲームに参入を検討している関係上、中古売買が認められないと困る」。グッドウィルは「判決は歓迎すべき。売買差益が追い風になり、新品・中古品を問わず売れ行き好調」と話す。一方、ソフマップは、「メーカーとの関係もあり、今回の判決は良いとも悪いとも言えない」と慎重だ。一見すると販売店が有利かに見えるが、実は違う。メーカーのなかには、「中古ソフト販売が止まらないなら、制作者は自らの著作権を“自衛”しなければならない。今後、ゲームはネットワークに対応し、課金方式に流れる。記録媒体と再生装置の通し番号や認証番号と暗証番号を掛け合わせて複雑なアクセス制御を実施すれば、中古販売は消える。すでに音楽CDでは、パソコンで再生できないようレコード会社が自衛策を打ち出し始めた」と、強硬手段を示唆する声も根強い。

 今回の判決は、メーカーの自衛までは否定していない。現にWindows XPは、上記の方法で中古販売を阻止した。販売店は「中古品の販売額に応じ、『振興基金』の名目でメーカーに利益を還元すると、5年も前から提案している。しかし、メーカーは『まずは頒布権を認めなければ話し合いに応じない』と突っぱねる」(金岡社長)と漏らす。中古ゲームソフトの裁判は終わった。だが、メーカー(権利者)、販売店、消費者の3者がみな納得する仕組みづくりは始まったばかり。メーカーが強硬な自衛手段を打ち出しても、販売店や消費者に受け入れられなければ、結果的に市場が伸びずにメーカーも滅ぶ。3者の利益が最大化できる方向に妥協点を見つけられるよう期待したい。
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