店頭流通

電気街の強さとは 街のブランド力

2002/07/08 16:51

週刊BCN 2002年07月08日vol.948掲載

 いま、東京・秋葉原電気街は大きな逆風を受けている。マルチメディア総合研究所が発表した2001年度の東京圏におけるパソコン販売で、秋葉原は前年度を21.3%割り込み、シェアは33.1%に、パソコン販売台数も年間50万台を下回った。

 確かに数字で示されるまでもなく、環境は厳しい。ヤマダ電機、コジマに代表される郊外型店舗の急増、ヨドバシカメラ、ビックカメラに象徴される大規模ターミナル駅に建つ大型店舗など、秋葉原電気街は決して楽な状況にはない。

 この逆風に対抗する新しい試みがスタートした。NPO(非営利組織)法人エイ・アイ・アイ(A・I・I)が、クリエイター発掘を目的としたイベントを開催する。このイベントに秋葉原として協力し、さらに秋葉原駅前の都有地で現在開発が進められているITセンターを活用していくことを東京都と共同で計画中だという。

 A・I・Iに理事として名を連ねる九十九電機・鈴木淳一社長は、「これまで秋葉原の電気店が販売してきたのはハードばかり。ハードの外側にあるソフト部分は扱ってこなかった。しかし、ソフトの重要性はいうまでもなく、都有地に建設されるITセンターには大きな期待をしている。A・I・Iの若いクリエイターを発掘し、育て、活用していこうという試みは、これまで手つかずだったソフト事業そのもの。秋葉原電気街にとってもメリットになる」と話す。

 販売店の特性上、パッケージで売られるソフトではない、形のない本当の意味での「ソフト」は扱われてこなかった。「ソフトの重要性」が叫ばれるなかで、物販を行ってきた販売店としてどうソフト部分を拡充していくべきなのか、模索の真っ直中にある。

 しかし、「秋葉原」という街には、実は強力な「ソフト」が存在する。7月2日に開催されたA・I・Iの設立披露懇親会で、会場に訪れた人と話をするうちに、それに気づいた。

 A・I・Iの名誉理事となった唐津一・東海大学教授は懇親会のあいさつで、「ITセンターの用途については現在検討し、いろいろなところに呼び込みをかけている最中だが、ぜひ秋葉原を世界のITセンターにしたい。シリコンバレーは不況で潰れてしまったが、秋葉原のように何でもある街はほかにはない。間違いなく世界技術の最先端を行く商品がある街だ」と、秋葉原が依然技術者にとって魅力ある場所であると強調した。

 東京都産業労働局・帆刈祥弘観光部長は、「秋葉原は私が管轄する東京都の観光地のなかでも優等生。しかも、若い頃に秋葉原に通ったという人が多いから、唐津教授をはじめとする錚々たる顔ぶれが、秋葉原のためならと一肌脱いでくれる」と語る

 確かに、人を惹きつけるパワーを秋葉原電気街はもっている。「人を呼ぶブランド」という「ソフト」に関しては申し分ないといえるのではないか。電気街のパワーは秋葉原だけでなく、大阪・日本橋、名古屋・大須にもある。それは、「街のブランド」というソフトだ

 名古屋・大須の隣に、ヤマダ電機の新店舗がオープンした。それでも大須のパソコン店の幹部が「大丈夫、決して大須は負けていない」と胸を張れるのは、各店舗のがんばりとともに、「電気街ブランドの強さ」が依然生きていることの証左でもある。

 あとはこのブランドを過去のものとせず、未来に向けてさらに高めていくことだ。そうすれば、一時的な落ち込みはあっても必ず電気街は復活できる。(三浦優子●取材/文)
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