店頭流通

パソコンメーカー各社 「市場底打ち宣言」なるか

2002/10/21 16:51

週刊BCN 2002年10月21日vol.962掲載

この年末商戦が「下げ止まり」となるかは、新規需要を引き出せるかにある――。NECは、メーカー主導による製品開発を撤廃し、徹底した市場調査に基づく製品づくりへと抜本的に変えた。富士通は、ホームサーバー・ホームネットワークを切り口に、家庭における2台目、3台目の開拓に向けて本格的に乗り出した。ソニーは、今の勢いをそのままに、AVとITの融合という独自路線を突き進む。キーワードは“新規需要の引き出し”にある。NECカスタマックスの片岡洋一社長は、「まだパソコンをもっていない約8400万人の潜在顧客に、どうパソコンを使ってもらうかを実践するのが今年の年末商戦だ」と指摘する。2年連続で前年割れを続ける個人向けパソコン市場は、果たして「底打ち」するのか。

年末商戦に向け、新戦略続々

■パソコン市場、縮小傾向続く

 パソコントップシェアを猛進するソニーマーケティングの池戸亨副社長は、「期首目標の180万台超の販売目標は、どうやら難しい雲行きだ。前年並みの170万台に落ち着き、売上金額も前年並み維持をなんとか達成する見通しが立ったという段階」と、渋い表情で語る。

 BCN総研の調べでは、パソコン本体の販売台数は2001年1月から今年9月まで21か月連続で前年割れを続け、02年の市場規模は、4年前の98年当時の規模まで縮小した。00年をピークに、縮小の一途を辿る。

■新たなコンシューマ需要を模索

 NECカスタマックスの片岡社長は、「世帯普及率が6割に達してはいるものの、内訳を見ると、パソコン保有世帯のうち、約半数の3600万人がパソコンを使っていない。この年末商戦では、家庭内にパソコンはあるものの、実際には使っていない3600万人と、そもそも家庭にパソコンがない4000万人に向けて売り込む」と、ターゲット層をより明確にした。

 富士通パーソナル販売推進統括部の小林義法第二販売推進部長は、「個人普及率で考えれば、まだ3割しかない。家庭のなかの一部の人しか使わないパソコンを、ホームネットワーク・ホームサーバーの切り口で、家族全員が使うものに変えるのが、今年の年末商戦の重要なテーマだ」と、家庭内パソコン利用率の向上に力を入れる。

 ソーテックの大邊創一社長は、「徹底した低価格戦略を貫く。パソコンを使わない8000万人あまりの人々に、パソコンを使ってもらうには、やはり1台10万円は高すぎる。大手メーカーの20万円なんて論外。当社では、17インチ平面CRTモニタ付きデスクトップで6万9800円、B5薄型ノートで9万9800円を出した。6万9800円のパソコンならば、約8000万人のパソコン未利用者に手が届くかも知れない。これでもダメなら、来年以降、4万9800円クラスのデスクトップを出す」と、値段を下げる覚悟だ。

■ノートでもしのぎを削る各社

 シャープ、松下電器産業、東芝は、より薄く、より軽く、ノートに特化した一点突破型ビジネスを推し進める。年末商戦に向けたシャープ・ムラマサは、10.4インチ液晶モニタ搭載のノートパソコンで世界最薄の13.7ミリ、最軽量の950グラムを実現。

 シャープ情報システム事業本部パソコン事業部・川森基次事業部長は、「上期のシェアはノート市場で8%だった。年末商戦は、今回の製品で10%のシェアを確保できる」と自信を見せる。

 松下電器産業のレッツノートは、10.4インチ液晶モニタで重さ960グラムの「R1(アールワン)」シリーズに加え、大型液晶モニタの12.1インチを採用した「T1(ティーワン)」シリーズ(重さ999グラムから)を投入。

 ITプロダクツ事業部マーケティングセンターの伊藤好生所長は、「当社は、B5モバイル市場に特化する。02年度のモバイルノートの市場規模は約125万台。ノートパソコン全体で630万台の市場規模があるのに対し、たった125万台しかないモバイルノート市場だが、まずは、ここでトップシェアを獲る。全方位で展開するNECやソニーと、同じ戦略を打っても意味がない」と、モバイルノート集中で臨む。

■NEC、新たな戦略へ

 市場が縮小するなか、主要各社は、利益確保に向けて、必死の構造改革を推し進める。NECは、02年度上期(02年4-9月)の家庭用パソコンにおける中国からの完成品調達比率10%を、この下期(02年10月-03年3月)には70%に引き上げる。最終的には、中国からの完成品調達比率を85%までに高める。

 これにより、「この下期、仮にシェアが横這いだっとしても、利益が出る体制になった」(片岡社長)として、上期と下期を通じて、今年度(03年3月期)、家庭用パソコンビジネスの損益トントンを見込む。

 また、NECは、メーカー主導の製品づくりを全面的に改め、市場調査に基づく製品づくりに切り替えた。この結果、家庭内でのパソコン利用率を高める「ファミリー向け製品」と、ホームサーバーやモバイルを基軸とした「ニュースタイル製品」の2種類を、既存のパソコン路線に加えた。デスクトップやノートの形態、CPUやメモリ、ハードディスク容量などのスペックによる区別をすべて撤廃し、「用途別」の区分けに改めた。

■生き残りをかけた施策

 「ファミリーやニュースタイルなど、新しい用途別提案は、販売店の協力なしにはできない」(片岡社長)と判断し、第一次販売店教育プログラムを10月末までに2000店舗を対象に実施する。年末にかけて第二次販売店教育プログラムを実施し、さらに4000店舗まで教育対象を拡げる。これにより、ファミリー向け製品を、しっかり展示・提案できる店舗数を年末商戦期までに、最低でも新しく600-1000店舗確保する。

 ソーテックの大邊社長は、「残念ながら、ここ1年の間は、家庭用パソコンの市場は厳しい“氷河期”が続く。雪解けの時期は、来年末になる見通し。このため、この下期には、製造と物流以外のアウトソーシングを、すべて内製化する。販管費のうちコールセンタや保守サポートなどのアウトソーシングに費やしている比率は約30%あるが、これを若手社員で分担する」

 「さらに約200人いた派遣社員・アルバイトも約20人に減らした。雪解け時期になったら、再び成長路線を歩めるよう、一時的に外部へのキャッシュ流失を最低限に抑え、体力の温存を図る。氷河期体制に切り替えることで、下期単体では、黒字を達成する」と、浮沈の激しいコンシューマビジネスの荒波を乗り越える。

 市場が好転するか、しないかは、業界全体の努力によって変えることができる。NECカスタマックスの片岡社長は、「メーカー、販売店が一丸となって、顧客の心を掴むことが最重要課題。市場の規模を追うのではなく、市場の“質”を追求し、次の成長へと結びつけるべき」と、年末商戦に向けて気合いを入れる。
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