石井克美のデジタル家電ナビ

<石井克美のデジタル家電ナビ>17.「ドルビーブランド」を考える(2)

2005/08/01 16:51

週刊BCN 2005年08月01日vol.1099掲載

 光電管のサウンドトラックは、周波数特性が非常に悪かった。そこで、ドルビーではノイズリダクションとともに、周波数特性を拡大する技術も使用している。これが映画ファンなら周知の「ドルビーA NR」と言われている技術だ。光電管の音は、ほこりなどの影響でブツブツとノイズが大量に混入したが、これを除去する効果を持っていたのである。

 ノイズリダクション技術で映画産業との関わりを持ち始めたドルビーは、その後の映画の進化とともに技術開発の道を歩んだ。1975年に公開された「スター誕生」では、サラウンド成分を逆位相でステレオトラックにミックスしておき、マトリックス接続でサラウンド成分を取り出して再生させるサラウンド技術「ドルビーステレオ」を使用。

 その後、さまざまな映画でこの技術が採用され、大きく発展を遂げてきた。50年ほど前、磁気記録で運用が進められてきた映画用音声技術は、耐久性の問題で普及しなかった。それがたった2本の光電管用サウンドトラックが実現したことによって、映画業界に急速に浸透していったのだ。

 余談となるが、現在のドルビーデジタル音声も、フィルム上に記録されたパターンを光学的に読み取ることで実現している。携帯電話でおなじみのQRコードのような四角いデジタルパターンで焼き込まれ、それを読み取ってデジタル信号へと変換しているのだ。

 映画業界へのサラウンド技術が一般的になった後、「家庭向けサラウンド(=ホームシアター)」という新しい市場が生まれた。

 家庭向けビデオデッキが普及し、VHSの映画ソフトが一般に浸透し始めた。映画情報が記録された市販ソフトにはあらかじめドルビーサラウンドの音声が収録されている。それを取り出して再生する技術を試行錯誤し、84年に最初のドルビーサラウンド対応コンシューマ機器が生産された。

 こうして市場が生まれてしまうと、映画館向けに作られたサラウンド音声をそのまま無加工で家庭用ソフトにも応用し、それをデコードして家庭でも楽しむ技術が定着。20余年でアナログからデジタルへの変遷はあったが、最も普及した音声技術として知られるようになった。

 近年はパソコン用のソフトウェアデコーダも普及し、2ch音声を5.1chにデジタル技術で変換するドルビープロロジックIIや、5.1ch音声を6.1ch化するドルビープロロジックIIxも、パソコン用ソフトにライセンスされまでになっている。
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