店頭流通

本格化する携帯通販 若い女性をターゲットに 

2005/09/05 16:51

週刊BCN 2005年09月05日vol.1103掲載

 「iモード」をはじめとする、携帯電話を使ったウェブ通信販売が急拡大している。業界団体「モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)」の調べによると、2004年のモバイルコマースの市場規模は、前年比45%増の2013億円。そのうち物販市場は同79%増の969億円となった。好調の背景には、携帯電話の画質向上とパケット料金の定額制普及があるが、高感度なF1世代(20-34歳の女性)向けマーケティングも奏功している。しかし、携帯通販を日常的に利用しているユーザーは1%に満たないといった業者の声もあり、現在の勢いを加速させ、定着を図るために各社は営業力強化を急いでいる。(長浜淳之介(フリーライター)●取材/文)

パケット定額制が追い風

■物販市場は前年比79%増

 MCFの調査によると、04年のモバイルコンテンツ関連市場(モバイルコマース市場とモバイルコンテンツ市場を合わせた市場)は4616億円。03年の3522億円、02年の2871億円からの成長が著しく、前年比31%増となった。

 そのうち、デジタルコンテンツ配信を中心とするモバイルコンテンツ市場は2603億円(前年比22%増)。一方、モバイルコマース市場は2013億円(同45%増)。

 モバイルコマース市場の内訳では、イベントや航空券のチケットなどを扱うサービス系と、証券取引やオークションの手数料などを扱うトランザクション系を合わせて1044億円(同21%増)に対して、物販市場は969億円(同79%増)に達しており、特に通信販売の急伸が際立っている。

■雑誌と連携し相乗効果発揮

 インターネットを使ったコンテンツ事業を展開するインデックス(小川善美社長)は、「iモード」サービス開始から1年後の00年暮れから、携帯電話による香水の通販サイト「香水屋さん」を展開し、現在は「アクセサリー屋さん」、「コスメ屋さん」、「お花屋さん」を加えて4つの通販サイトを運営している。

 「iモード」限定の「お花屋さん」以外は、NTTドコモ、au、ボーダフォンの3キャリアすべての公式コンテンツになっている。会員数は「香水屋さん」で約40万人。

 網本友加・モバイルコミュニケーション部部長によれば、「当初は美容関連の有料情報コンテンツを配信していたが、香水のアクセスログが多く、そこで紹介されている商品を買えないかという声が多数寄せられたのが、通販を始めるきっかけだった」という。

 顧客層は、当初は10代後半から20代前半の女性が中心だったが、現在は20代後半まで広がっている。客単価は香水で6000円前後、アクセサリーで1万2000円前後。しかし、「携帯電話のミドルまでのユーザーには通販の利用は浸透してきたが、ライトなユーザーはまだまだ抵抗感がある」(網本部長)というのが実情。

 そこで、ライトユーザー取り込みのために、雑誌など既存のメディアとの相乗効果を狙う戦略も取っている。

 系列のインデックス・マガジンズでは、30万部発行しているファッション誌「SOUP」に通販ページを設けたり、隔月刊の20代、30代向けファッション・雑貨の通販フリーペーパー「エフモード」を全国のショップ店頭に40万部配付。地方在住者でもケータイから渋谷や原宿で人気の最新ファッションが手軽に買える点を“売り”にしている。「エフモード」は年に2回、ファッションショーも行っている。

 インデックスの昨年度(05年8月期)の売り上げは、前年度比約2倍の820億円を見込んでおり、コマースは、コンテンツ、ソリューションに次ぐ収益の柱であり、大幅な伸びが見込まれる。

■サイト会員を商品購入に誘導

 Eコマース事業を展開するゼイヴェル(大浜史太郎社長)は、00年6月から携帯電話でのF1世代向けポータルサイト「ガールズウォーカードットコム」を展開し、女性向けサイトで日本最大級の900万人強の会員登録を誇っているが、8月7日、サイト5周年を記念して、東京・原宿の国立代々木競技場第一体育館でファッションフェスタ「東京ガールズコレクション」を開催した。

 これは消費者1万2600人を集めて、「セシル・マクビー」、「マウジー」など、いずれも人気の25ブランドのショーのほか、ミスコンテスト、和田アキ子さんのライブなどを盛り込んだイベント。そこで紹介された商品は携帯電話、百貨店のプランタン銀座、トランスメディア発行の雑誌「グリッター」臨時増刊号のいずれからも購入できるというメディアミックスを追求している。

 また、このイベントに特別協賛したヤフーと共同事業で、10月にはパソコン版の「ファッションウォーカードットコム」を立ち上げる。同イベントは年2回開催し、定例化を目指す。

 このような施策を打つ背景としては、「年商80億円では、購入率は会員の1%に満たない。これを2%、3%に伸ばしていくのが課題」(ゼイヴェルの石倉正啓プロデューサー)といった事情がある。購入単価約1万円のファッション関連アイテムが売り上げの約7割を占めている。そこでサイトの知名度とイメージアップに注力しているわけだ。

 昨年、東急東横線代官山駅前(東京都目黒区)に、サイトと連動した化粧品のセレクトショップ「コスメキッチン」をはじめ、カフェ、ヨガスタジオ、ネイルサロンを集積させた商業施設もオープンさせている。

 同社では、第3世代携帯のパケット通信使い放題定額制の普及をチャンス拡大の好機と見ている。というのは、消費者にとって、これまで通信代に払っていた料金を商品購入に回せる余裕が出てくるからだ。

 前出のインデックスでは、昨年12月に開始した「名刺Gocco」という、会員になれば携帯電話で簡易ブログを立ち上げSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)的なコミュニティに参加できる約11万人の会員を持つサービスを活用。自分の気に入った商品を他人に推薦して、購入した場合にインセンティブが入る、パソコンの「楽天市場」などに似たアフィリエイトシステムを今秋導入する予定である。

 口コミマーケティングは携帯電話に向いた販売手法であるだけに、携帯通販大ブレイクの起爆剤になるか、動向が注目される。

携帯電話で読書する時代?

 携帯電話での読書が浸透しつつある。新潮社では2002年1月に携帯電話の小説配信サイト「新潮ケータイ文庫」を立ち上げ、常時40作ほどをアップしている。利用料金は月額で、NTTドコモが新潮社の新刊と雑誌の情報込みで210円、auとボーダフォンが105円。会員は約3万人で、最近1年での伸び率が大きいという。
 平日毎日更新し、1200-2000字程度ずつ配信するので、新聞小説のような感覚。乃南アサさんの『あなた』のように、のちに書籍化されてヒットした例もある。また、内藤みかさんの少し官能的な軽めの小説のように、書籍では売れなくて携帯電話でのみヒットする作品もある。
 ユーザー層は10代後半-30代前半で、女性が7割。本を読まなくなったと言われる若い世代だが、通勤・通学の電車のなかで懸命に携帯電話をのぞいていれば、小説を読んでいるのかもしれない。そんな時代になってきた。
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