大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>13.シャープの薄型テレビ事業に死角はないか

2006/08/28 18:44

週刊BCN 2006年08月28日vol.1151掲載

 シャープの液晶テレビ事業が好調だ。先頃発表された第1四半期決算では、液晶テレビ事業の実績は、前年同期比40%増の1175億円、台数では50%増の112万台と大幅な伸長となった。

 この8月には、当初の計画を2か月前倒しして、第8世代のパネルが生産可能な亀山第2工場を稼働させた。「大画面テレビに、最も効率的なパネル生産が可能になる。パネルにおけるコストダウン効果は大きい」と、シャープ・町田勝彦社長は胸を張る。

 8月末から9月上旬にかけて、シャープは年末商戦向けの新製品を発表することになる。ここでは40インチ、50インチのクラスで、戦略的な新製品を投入してくると予想されるが、これも亀山第2工場の稼働が大きく影響している。シャープの液晶テレビ事業は、さらに加速する体制が整いつつあるのは間違いない。

■海外でのブランド力が弱点

 だが、国内薄型テレビ市場でトップシェアをもち、好決算を誇るシャープには大きな弱点がある。

 それは一言でいえば、海外市場における戦略の遅れだ。

 北米や欧州の市場を見渡すと、「SHARP」あるいは「AQUOS」のブランドは、残念ながら定着しているとは言い難い。

 薄型テレビは、グローバルでの戦いが前提となる。世界規模の旺盛な需要に対して、いかにシェアを獲得するかが、各社のコスト競争力を左右し、生き残りを決することになる。

 日本ではあまり回復感が感じられないソニーが、テレビ事業の業績を回復させているのは、ブランド力がある北米での成功を抜きには語れない。自らが得意とする北米市場での事業拡大を足がかりにして、テレビ事業の復活につなげるという、ソニーにしか描けないシナリオを実行した結果だ。

 立場を変えれば、いま、国内で好調なシャープの業績も、北米、欧州での戦略を成功させない限り、今後の液晶テレビ戦略は頭打ちになるのは明らかなのだ。

■大画面化で北米市場を攻略

 シャープはこれまでにも、海外でのブランド価値を向上させる取り組みをしてきたが、今年10月以降、さらに投資を拡大する。

 「北米市場向けの宣伝広告費は、前年の約2倍」(町田社長)とし、様々なキャンペーンを展開するほか、これまでは30インチ台を主力としてきた北米市場向けの液晶テレビを、40-50インチ台にシフトする考えだ。

 ここにも、大画面化で威力を発揮する亀山第2工場の生産体制が大きく寄与する。実際、亀山第2工場の生産台数のうち、5割が北米市場向けになる見込みだ。

 「これまでは30インチ台の製品が中心であったため、壁陳列をされずに、多くのメーカーの製品と一緒に島陳列されていた。これではブランドが定着しない。だが、大画面化によって、壁陳列が可能になり、販売店の扱いも変わってくる。まずはここから始めていく」(町田社長)

 大画面製品の投入によって、これまで休止していたベストバイとの取引も開始されることになりそうだ。大画面化へのシフトは、収益確保にもプラス要素となる。

 シャープの薄型テレビ事業の中長期的成長に向けた次の挑戦が始まっている。
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