経済産業省主導のICタグ実証実験が大手家電量販店で実施された。実験の内容は、在庫管理や保守・修理サービス。ICタグの活用で販売増や業務効率化、サービス向上などにつながるかを検証した。結果は、現場でICタグを活用すれば大きな効果があることが判明した。ICタグ活用のSCM化は、以前からさまざまな取り組みが行われ、ここにきてシステム的に実用可能なことが見えてきた。しかし、誰がICタグのコストを支払うかという課題が再浮上してきた。(佐相彰彦●取材/文)

在庫確認と修理情報で検証

■業界を網羅したSCM構築が狙い 在庫管理で販売機会は増大へ

 今回の実験は、経済産業省が進める「電子タグを活用した流通・物流の効率化実証実験事業」の一環として行われたもの。大手家電メーカーなど13社が参加する「家電電子タグコンソーシアム」が中心となり、メーカーから物流、小売店、保守事業者、消費者までを網羅したSCM構築に向け、ICタグによる効果を測定するのが狙い。その一環として、店舗内の在庫管理と保守・修理という2種類の業務について検証した。ICタグ対応のシステムは、世界標準化を進める「EPCglobal」仕様で構築された。

 家電量販店として「店舗在庫ロケーション管理」でヤマダ電機、「保守・修理」でビックカメラとエディオン、ヨドバシカメラなどがフィールドトライアルに参加した。家電電子タグコンソーシアム事務局の紀伊智顕・みずほ情報総研・コンサルティング部シニアマネジャーは、「今回の実験が成功すれば、業界全体のSCMを実現するうえで大きな力になる」とアピールする。

 ヤマダ電機では、テックランド新座店を実施店とし炊飯ジャーやDVDプレーヤー、iPodなど3000アイテムを対象にJANコードをベースにした識別番号「SGTIN」を割り振り、入荷検品から店頭でのリアルタイム在庫確認を行った。炊飯ジャーとDVDプレーヤーの箱にUHF帯のICタグを貼付。店員がPDAを活用して在庫を確認できる仕組みだ。iPod関連商品については、13.56 MHz帯のICタグが付いた専用ICカードを店内設置のリーダーにかざすことで在庫を確認できるほか、来店者が「お持ち帰りカード」を発行して商品を購入できるようにした。

 ヤマダ電機では、店員がPDAを所持することで、以前から店頭への品出しのタイミングを徹底してきた。ところが、現状のシステムでは在庫が倉庫にあるのか、店頭に陳列されているのかが把握できない。しかも、入荷したばかりの商品はシステムに入力しなければ在庫として反映されないため、時には、販売機会を失うケースもあった。フィールドトライアルでは、ICタグのメイン機能であるトレーサビリティ(商品履歴追跡)で入荷商品の保管場所が把握できただけでなく、搬入口に到着したばかりの商品を販売することも実現できたという。

■保守・修理の実験は世界初 大幅な業務効率化を達成

 ビックカメラやエディオン、ヨドバシカメラで実施された保守・修理時の実証実験では、保証書の裏面にICタグを貼付し、店内受付窓口の迅速な対応や、ユーザーがインターネットで保守・点検作業の状況を確認できるサービス提供などを検証した。業界全体で保守・修理の実験を実施するのは世界初という。ビックカメラ有楽町店ではPDPやDVDレコーダーなどを対象に修理サービスを実施し、大幅な業務効率化につながった。ビックカメラの宮嶋宏幸社長は、「ICタグの実証実験は、これまでトレーサビリティを追求するものが多かったが、有楽町店で実施した実験は一歩進んだ取り組みといえる。最近では、商品が複雑化していることから、ちょっとした操作で不具合が生じるケースもある。ICタグの活用でユーザーに大きなメリットが出ることに期待したい」としている。

 両実験とも成功し、IC活用の効果が分かった。システムについては各店舗によってカスタマイズを行う必要があるが、最近はITベンダーの多くがICタグ関連システムの開発に力を入れているため、すぐにでも実用化が可能といえる。

 ICタグ実用化に向けた環境が着々と整備されているわけだが、ICタグの対価を誰が払うのかという業界の大きな課題が残っている。ICタグは、価格が1個あたり10円以上と高い。しかも、家電量販店によってICタグシステムの利用シーンが異なってくると、小売店側がICタグのコストを負担する可能性も出てくる。

 しかし、これまでバーコードでSCMを実現してきただけに小売店側でICタグを負担するという意識は薄いといえそうだ。というのも、家電業界は将来的にICタグを各製品の中に埋め込むことを検討している。そのため、「ICタグのコストを小売店だけが負担するのは筋違いなのではないか」(ヤマダ電機の鈴木芳治・情報システム事業本部システム運用部長)との見方が強いというわけだ。

 家電電子タグコンソーシアムの紀伊氏は、「ICタグコストの支払者については今後詰めていく」とのコメントにとどめている。ビックカメラの宮嶋社長は、「小売りの立場としては、できるだけ早い段階でICタグの導入を望んでいる」としている。システム的に実用化が十分可能なことが判明しただけに、家電業界でICタグ活用のシステムを普及させるためには最低でも1個あたりのコストが10円未満になる、もしくは誰が支払うかを明確に決めることが、ICタグシステムのユーザー企業を増やす最も重要なポイントであることが判明したことになる。