大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>112.iPhoneが新料金プランを導入した隠れた狙い

2008/09/08 16:51

週刊BCN 2008年09月08日vol.1250掲載

 ソフトバンクの孫正義社長のiPhone 3Gへの入れ込みようは尋常ではない。
 先頃行われたソフトバンクの第1四半期決算会見においても、孫社長は自らが所有するiPhone 3Gのデモンストレーションに多くの時間を割いてみせた。

■ドコモより安い料金設定

 会見の冒頭から、7月に中国に出張した時のエピソードに触れ、「人生観が変わるぐらい大きな出来事を体験した」と前置きしながら、「iPhoneを持っていったことで、初めて海外出張でノートPCを使わなかった」と語った。

 孫社長によると、「海外出張に行くと、ホテルに入って最初に行うのがネットの接続。場合によっては、30分や、1時間を費やすこともあった。また、ホテルに帰ると、必ずメールの返事に時間を費やされた。だが、今回の中国出張では、こうした儀式ともいえる接続作業を行うことなく、iPhoneでメールをチェックし、エクセルやパワーポイントの資料を確認できた。さらに、ホテルの部屋に入る前にメール返信などのすべての作業が完了しており、自分の時間を効率的に使うことができた」などと、iPhone効果を語った。

 こうしたなか、ソフトバンクでは、新たな料金制度を用意した。パケット定額フルに、新たに下限料金として、1695円を設定。ホワイトプラン、S!ベーシックとあわせて2990円で利用できるようにしたのだ。当初の料金制度では、5985円の定額に一本化されたものであり、月額7000円以上の費用が必要だったが、下限料金ならば、これまでの約半分の料金負担で済むことになる。

 これにより、「ドコモの定額制度を利用するよりも、iPhoneのほうが安い」(孫社長)という料金プランになるわけだ。端末価格も、906iシリーズよりも、iPhoneのほうが安い設定となっていることから、高いと言われたiPhoneが、一転して安い機種に位置づけられることになる。

■混雑緩和も狙いの一つ

 孫社長は、「iPhoneの売れ行きは想定以上。満足のいくスタートが切れた。また、端末1台あたりのトラフィック量もだいたいわかってきたので、今後もiPhoneの販売数量を増やしても大丈夫だと判断した」として、新料金プランによる顧客拡大に臨む姿勢を見せた。あわせて、法人向けのサービスを8月中にも開始し、企業需要にも広げていく方針だ。

 実は、新料金制度の導入には、料金の敷居を低くすることで、エントリーユーザーを獲得する狙いのほかに、もうひとつ隠れた狙いがある。

 それは、3Gネットワークのトラフィック混雑の緩和だ。

 iPhoneの通信環境は3Gと無線LANの双方を利用できる。これまでは定額料金が一種類だったため、手軽に3Gに接続するという使い方も多かったが、料金が2段階制となったことで、コストを安く抑えようという意識が利用者に働き、無線LAN経由の利用が期待される。つまり、契約数の伸びに沿う形では3Gトラフィック量が伸びないことを前提にした料金制度の導入というわけだ。

 敷居を低くして契約数を増加させながら、トラフィック量の伸びを緩和させるという一挙両得が、新料金プランに込められている。
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