デジタルトレンド“今読み先読み”

SIMロック解除に乱れる足並み キャリアやメーカーの事情が交錯

2011/04/21 16:51

週刊BCN 2011年04月18日vol.1379掲載

 携帯電話やスマートフォンを使うときに必要なSIMカード。電話番号などの固有の契約者情報を記録するこのカードは、通信事業者(キャリア)がユーザーに貸与するかたちで発行し、端末を特定のキャリアでしか使えないようにする(=ロック)ものだった。この「SIMロック」が、解除の方向に進んでいる。3月11日、NTTドコモがSIMロック解除への対応を正式に発表し、4月1日にサービスを開始。以降に発売するNTTドコモの端末は、手数料を払えば原則的にSIMロックを解除できるようになった。しかし一方では、解除に懐疑的、消極的なキャリアや端末メーカーも存在する。それを分けるものは何か――。

キャリアそれぞれの事情が解除への姿勢を分ける

 「今年4月以降に発売する携帯電話やスマートフォンは、すべてSIMロックフリーに対応する」。NTTドコモの山田・持社長は2月24日の記者会見で、こう明言した。一方、ソフトバンクの孫正義社長は、対象モデルを限定して試験的に対応する考えを示しながらも、「さまざまな不具合が出てくる。解除した端末は単価が4万円ほど高くなる」と語っている。KDDI(au)は、「端末メーカーが自社ブランドの端末を供給するか、もしくは国内の全通信規格に対応した端末やサービスを供給するかにかかっている」(古賀靖広・渉外・広報本部渉外部長)と、通信事業者が解除の是非を決めるものではないとしている。

NTTドコモは4月1日以降に発売する端末でSIMロック解除に対応する

 解除に関してドコモは積極派、ソフトバンクは懐疑派、KDDIは消極派と姿勢は分かれるが、これにはそれぞれの通信方式が関係している。NTTドコモとソフトバンクの通信方式はW-CDMA。これに対してauはCDMA2000で、SIMロック解除をしてもau端末で他キャリアのSIMカードは使えず、auのSIMカードで他キャリアの端末は使えない。SIMロック解除の環境になると、加入者離れが進む能性が高くなることから、KDDIは消極的なのだ。一方、ソフトバンクが懐疑的なのは、“キラー端末”であるiPhoneの回線契約を守りたいという思惑がある。ドコモと通信方式が同じなので、SIMロックが解除になると、ドコモ加入者がiPhoneの端末を購入し、ドコモの回線で利用することができるようになるのだ。

 懐疑派・消極派の間隙を縫うように積極的に動いているのが、MVNO(仮想移動体通信事業者)だ。イー・モバイルは、通信方式はW-CDMAだが、周波数は1.7GHz。ドコモ/ソフトバンクの2GHzとは異なる。ドコモが東名阪の一部エリアでこの1.7GHz帯を使っているためにエリアは限られるが、イー・モバイルのSIMカードは、例えばNTTドコモの1.7GHzに対応した端末で使うことができる。しかも、他社より月額料金が安いなどのメリットを打ち出し、積極的に加入者獲得に動く。

 SIMロック解除端末に対応するSIMカードをいち早く提供した日本通信は、下り最大7.2Mbps、上り最大5.4Mbpsの通信サービスとSIMカードがセットになった従量課金制のパッケージ「b-mobile Fair」を4月5日に発売。三田聖二社長は、「携帯網の開放から携帯端末の自由化、SIMロック解除へと時代が移るなかで、ユーザーの期待に応える」としており、賛同する端末メーカーを増やしていく構えだ。

外資系には追い風
ユーザー目線で足並みを揃えよ

 温度差が生じているのは、キャリアの間だけではない。端末メーカーも、足並みは揃っていない。国内メーカーはSIMロック解除に消極的だ。

 昨年10月に富士通と東芝の携帯電話事業が統合して誕生した富士通東芝モバイルコミュニケーションズは、「SIMロック解除がメリットとは限らない」(大谷信雄社長)と漏らしている。サポートや販売面でコストがかかるからだ。特定のキャリア向けに端末を提供しているからこそ、キャリア側がサポート体制を整えてくれる。これをメーカー側でやるとなれば、莫大なコストがかかる。また、端末の販促も行わねばならない。さらに同社の場合、ドコモとKDDIの両キャリアに製品を供給している事情もあって、メリットが低いというものもうなずける。

 一方、外資系メーカーは前向きだ。キャリア各社から端末を出しているHTC Nipponは、「キャリアとともにビジネスを手がけていくスタンスは今と変わらないが、SIMロック解除は当社にとっては追い風と捉えている」(デビッド・コウ社長)。ドコモ経由でスマートフォン「GALAXY」を提供するサムスン電子も、日本で取引するキャリアを増やしたい考えを持っている。

 では、ユーザーはどうか。SIMロック解除で、キャリアに関係なく自分の好きな端末を選ぶことができるのは大きなメリットだ。とくに、このところ人気のスマートフォンはそれぞれ個性が異なり、自分に合った端末を使いたという意識は高まっている。

 キャリアやメーカーが「加入者が増えない」「新たなコストが発生する」などの理由で積極的に動かないという事情は理解できないでもないが、ここで求められるのはユーザー目線だ。自社の回線、自社の端末を使ってくれているお客様に、SIMロック解除で何が提供できるのか、改めて検討する必要がある。まずは解除に関する通信事業者とメーカー、それぞれが足並みを揃えた姿勢を示すことが重要だ。SIMロック解除が本格化した際、加入条件や月額料金などでユーザーが困惑する事態だけは避けなければならない。(佐相彰彦)
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