これからの時代(Era) をつくりだす存在となるであろう業界注目の若手経営者にフォーカス。そのビジネス観や経営哲学に迫ります。今回は「バカン・河野剛進代表取締役」を取材しました。
心に余裕を
地元は、宮崎県中部の都農町。人口や経済の縮小が進むように見える地域を活気づけたいと、学生の頃から「将来、起業する」と決めていた。頭にあったのは米シリコンバレーだ。「田舎にあるのに、多くの夢を持った人が集まって雇用を生み、国の経済を支えている。地元でもできないだろうか」と思っていた。
創業につながる気づきは、結婚後に出かけた商業施設で得た。激しく混みあい、入れる店を探して歩き回るうち、子どもが泣き出してしまい食事を諦めて帰った経験があった。繰り返せば外出が億劫になってしまう。「長い待ち時間や『行ってみたのに入れなかった』がなくなれば、心に余裕が持てるのでは」と考えるようになった。
混雑状況を可視化
シンクタンクやIT企業などで経験を積んだ後、2016年にバカンを創立した。設置したカメラで人流データを集め、施設の空き状況を可視化することで混雑を解消するソリューションを提供する。
ミッションは「人と空間を、テクノロジーで優しくつなぐ」。トイレの行列解消を促す「AirKnock(エアノック)」は、個室内の壁に設置したタブレットを通じて外の混雑状況を知らせる。混んでいることに気づけば、多くの人は「次の人のために早く出よう」と思ってくれる。こうした「優しいアプローチ」でも、長時間とどまることを十分に抑制する効果を発揮している。
避難所にも展開
手応えを感じるのは、自社のソリューションがさまざまな場所で実装されているのを見るときだ。商業施設や宿泊施設のほか、近年は全国の自治体が運営する投票所や災害時の避難所などでも導入されている。自分たちの働きが命を守ることにつながり「すごく価値を感じている」
「心にゆとりが生まれれば、人に優しくできると思う」。そうやって、人々の間で優しさが連鎖する社会をつくれると信じている。
プロフィール
河野剛進
1983年生まれ。宮崎県出身。東京工業大学大学院修了後、三菱総合研究所で金融領域の研究員として勤務。グリーなどを経て2016年、バカンを設立した。
会社紹介
2016年設立。商業施設や観光地、災害時の避難所などの混雑・人流マネジメントを行う。トイレ個室内に設置した端末を活用する広告メディア事業「UNVEIL(アンベール)」なども手掛ける。
社名は英語で「空いている」を意味する「vacant」から名付けた。