その他
固定電話はもういらない? 立ち上がり始めたIP電話 ADSLを追い風に、新サービスが続々登場
2002/02/04 15:00
週刊BCN 2002年02月04日vol.927掲載
ADSLの広がりで、IP電話が本格的に立ち上がり始めた。ソフト、ハード、サービスの3者が互いに協力しないと実現できなかったIP電話。ここへきて一気にその環境が整い始めた。ニフティ・サービス企画部の宮澤徹部長は、「音声に映像を加えたIPビデオ電話は基本サービスの延長」と、標準サービスとなっているメールやホームページと同じレベルだとし、イー・アクセス営業企画部の五十嵐尚部長は、「IP電話はADSL販売競争に勝ち抜くための必須アイテム」と言い切る。IP電話用のソフト開発メーカー、ルータなどのハードメーカーも開発競争にしのぎを削る。(安藤章司●取材/文)
“NAT越え”を克服、市場が動き出す
これまでのIP電話の最大の難関は、ルータを越えた通信ができなかった点。これは、双方向で出入りする音声や映像がルータのNAT(アドレス変換機能)の壁を越えられないため。鳴り物入りで登場したウィンドウズXP付属のビデオ電話機能付きメッセンジャーが実用性に欠けているのは、この「NAT越えができない」という理由からだ。
「NAT越え」の問題をいち早く解決し、シェアを伸ばしている企業がジャパンメディアシステム(JMS)だ。同社は、韓国のインターメディアとビデオチャットソフト「ブイチャット」を共同開発。ビッグローブ、ヤフーBB、OCNなどのプロバイダを経由して会員を増やし、01年9月から現在までに1万人の利用者を獲得した。今後は、法人向けのビデオ会議システムとしても売り込み、今年度(02年07月期)末には、ブイチャット事業だけで7億円の売上を見込む。
同社の既存事業であるリナックスサーバーの開発で年商が10億円であることを考えれば、NAT越えができるブイチャットの投入で、年商が一気に2倍近く伸びる計算になる。今年度末には、個人利用者40万人、法人顧客1万5000社の獲得を目指す。
ブイチャット部の町田詔一営業部長は、「NAT越えの技術がブイチャットの技術的核心。特許も申請した。NAT越え問題をクリアすることが、IPビデオ電話参入の最低条件だ」と、技術の優位性を強調する。
ブイチャットはパソコンどうしの通信だけで、固定電話や携帯電話など交換機網への通話はできない。そこでパソコンから交換機網への通話を切り口にIP電話を売り込むベンダーもある。
韓国セロムテクノロジーの子会社ダイヤルパッドジャパンは、ビッグローブと提携し、パソコンから日米韓一律3分10円で電話がかけられるサービスを提供。これまではNATを越えられなかったが、2月からNAT越え技術を導入し、本格的に利用者獲得に乗り出す。
同社の韓重元(ハン ジュンウォン)社長は、「今は交換機網への橋渡しだけだが、今後は、IP電話やIPビデオ電話、留守番電話、メール、ファクスなど、統合メッセージサービスに発展させる。すでに韓国では統合サービスが進んでいるが、日本ではこれから立ち上がる市場」と分析する。
セロムは、韓国のIP電話利用者600万人、米国で1400万人の会員をもつ大手IP電話事業者。だが、米国では、事業のあまりの急激な拡大のため資金繰りが悪化。民事再生法の適用下に陥ったが、「再建を進めており、この3月から再出発をする」という。日本では、「急激な成長路線は歩まず、堅実にいく。ここ2-3年で200万人の利用者を獲る」計画。
ルータメーカーも参入、IPビデオ電話も登場
ハードメーカーもIPビデオ電話に強い関心を示す。プラネックスコミュニケーションズでは、今後の新製品からマイクロソフトが提唱するユニバーサルプラグアンドプレー(UPnP)規格に対応することで、NAT問題を解決する方針。早ければ3月にもUPnP対応ファームウェアを公開する。NTT-MEでは、ウィンドウズメッセンジャーのIPビデオ電話が使えるようになるファームウェアを2月13日に公開すると発表している。
すでに、JMSやダイアルパッド、ヤフーメッセンジャーなどが、UPnPとは別の方法でNAT越えを実現しているが、これについてプラネックスの馬郡孝夫マーケティング課リーダーは、「UPnPは、通信機器同士の相互接続性を高める規格であり、『NAT越え』だけの問題ではない。例えば“IPビデオ電話機”をLANケーブルでルータに接続する際、双方の機械がUPnPに対応済みであれば、ワンタッチで、利用者は何も考えずに、即座に利用できるようになる。より多くのサービスに対応することが、ルータメーカーとしての最大の差別化になる」と指摘する。
ルータに接続する「IPビデオ電話機」の開発に社運を賭ける企業もある。パソコン用ビデオカード開発で有名な台湾のリードテックは、「世界シェア30%を獲る。今は、ビデオカードの売上が年商の93%を占めるが、3年後には50%以上がIPビデオ電話機の売上で占める」(盧崑山社長)と、意気込む。
パソコンの画面を前にヘッドセットを頭につけて話すのは、利便性に問題がある。同社では、いわゆるテレビ電話機の形をしたIPビデオ電話機を開発し、これをルータにLAN接続することで、たとえパソコンが起動していなくても電話がかけられるようにする考え。すでにIPビデオ電話事業に力を入れるNTT-MEが採用を決めている。
サービス会社も強い関心を示す。フュージョン・コミュニケーションズの角田忠久社長は、「今年夏には、ADSL事業者からの音声データを交換機網に橋渡しするサービスを始める」とし、イー・アクセスも「パソコンから固定・携帯電話に音声をつなぐサービスを、プロバイダなどに卸し売ることも検討中」と話す。イー・アクセスは、すでにウィンドウズメッセンジャーからの音声を公衆網につなぐサービスを打ち出している。
ニフティが採用した米ゴートゥーコールのサービスも、NAT越えが可能で、日米英加独など主要国に1分5円で電話できる。「NAT越えはもう常識。夏までには音声だけでなく、ビデオにも対応する。いずれにしてもIPビデオ電話がプロバイダの基本サービスになることは確実」(サービス企画部の宮澤部長)と話す。
ソフト、ハード、サービスの3者が、猛烈な勢いでIPビデオ電話への対応を進めている。ADSLなどインフラの拡大が、IPビデオ電話の誕生を促したのは間違いない。だが、今では、IPビデオ電話をはじめとするアプリケーションが、ブロードバンドをより多くの家庭に浸透させる原動力になった。今後は、このアプリケーションを、生活や仕事のなかで、どう活用していくかといった、より高度なアプリケーションの開発が急務となる。
ADSLの広がりで、IP電話が本格的に立ち上がり始めた。ソフト、ハード、サービスの3者が互いに協力しないと実現できなかったIP電話。ここへきて一気にその環境が整い始めた。ニフティ・サービス企画部の宮澤徹部長は、「音声に映像を加えたIPビデオ電話は基本サービスの延長」と、標準サービスとなっているメールやホームページと同じレベルだとし、イー・アクセス営業企画部の五十嵐尚部長は、「IP電話はADSL販売競争に勝ち抜くための必須アイテム」と言い切る。IP電話用のソフト開発メーカー、ルータなどのハードメーカーも開発競争にしのぎを削る。(安藤章司●取材/文)
続きは「週刊BCN+会員」のみ
ご覧になれます。
(登録無料:所要時間1分程度)
新規会員登録はこちら(登録無料)
ログイン
週刊BCNについて詳しく見る
- 注目のキーパーソンへのインタビューや市場を深掘りした解説・特集など毎週更新される会員限定記事が読み放題!
- メールマガジンを毎日配信(土日祝をのぞく)
- イベント・セミナー情報の告知が可能(登録および更新)
SIerをはじめ、ITベンダーが読者の多くを占める「週刊BCN+」が集客をサポートします。
- 企業向けIT製品の導入事例情報の詳細PDFデータを何件でもダウンロードし放題!…etc…