その他
新商品を模索する音響機器メーカー オーディオとITの蜜月時代到来?
2002/02/11 15:00
週刊BCN 2002年02月11日vol.928掲載
AV(音響・映像)ベンダーが、ITとの接点を模索している。音響機器の老舗、オンキヨーは「サウンドプロセッサー」という独自の製品群を揃え、パソコンで高級オーディオの音質を出すシステムづくりに力を注ぐ。パイオニアは、リビングルームを機軸にした「デジタルライブラリ」(仮称)製品群の開発に着手。ケンウッドはソーテックやイーヤマと組み、AVパソコンを売り込む。総合AVメーカーの巨人・ソニーは、バイオを中心とした「ミュージックサーバー」の開発に突き進む。AVベンダーの取り組みを取材した。
AV機器とパソコンの融合進む
AVとパソコンをつなぐ、新たな楽しみ方を提案
「パソコンは、高級オーディオの音を出せる」
こう言い切るのは“音”にこだわるオンキヨーCE事業部営業本部営業企画部の大林忠信担当部長。
同社は、パソコンのデジタルデータをUSB経由で吸い出し、外部のデジタルアナログ変換器で音声に出力する「サウンドプロセッサー」を開発。パソコン特有のデジタルノイズ(雑音)を遮断し、高級オーディオに匹敵する音を出す仕組みをつくった。販売価格は入門機で実売2万円前後、高級機で5万円前後という。
売り方は、USB接続型のパソコン周辺機器という位置づけ。店頭では周辺機器売場に並ぶ。
大林担当部長は、「パソコンがミュージックサーバーになるとしたら、いい音を出さなければならない。このためのAV周辺機器は必要不可欠」と、サウンドプロセッサーの売り込みに力を入れる。今年度(2002年3月期)の全社売上高のうち、サウンドプロセッサー関連の売り上げ比率はまだ数%だが、来年度(03年3月期)は10数%に引き上げる計画だ。
パイオニアは、「パソコン周辺機器としてのAV機器は出さない」と断言する。同社は、音楽ジュークボックス(自動演奏装置)、映像、デジタル写真などをテレビで再生する「デジタルライブラリ」(仮称)の開発に着手。この製品は、リビングルームにあるテレビの下に置くAV機器で、デジタルコンテンツを高品質で再生するという。
同社ホームエンタテインメントカンパニーネットワーク開発部企画推進部・山本俊哉副参事は、「パソコンの周辺機器ではないが、パソコンと関係がないわけではない。デジタルデータを加工するには、やはりパソコンが便利。現在開発中のデジタルライブラリは、あくまでも利用者がパソコンで加工したコンテンツを大画面のテレビで美しく再生するためのもの」と話す。
パソコンとは、LANかIEEE1394で接続し、デジタルライブラリ側からパソコンに蓄積してあるコンテンツを引き出し、再生する。
山本副参事は、「30万円以上の“高級AVパソコン”を買ったり、あるいは既存のパソコンに5万円のビデオカードを差し、2万円のオンキヨーのサウンドカードを差し、5.1チャンネルスピーカーをつけ“AVパソコン仕立て”にする利用者を否定するつもりはない。だが、ここの客層は、あくまでも『パソコンでいい音や映像を再現したい』というマニア層だ」と分析する。
「そんな多額の投資をしなくても、2万円弱のDVDプレーヤーを買えば、パソコンの何倍も美しい映像と音を再現できる。当社が狙うのは、こうした“専用機の品質”と“使い易さ”を求める利用者層。リビングルームでくつろぎながらAVを楽しもうという需要だ」と、安くて安定したリビングルーム型の専用機を主軸に据える。
バイオで一足先にAVを取り込んだソニーの木村敬治執行役員は、「パソコンのAV化では、米国が一歩進んでいる。米国の子供たちの間では、パソコンで音楽を聴くのでラジカセは必要ないという傾向が強まっている」と、米国での動きを把握している。
さらに続けて、「今後、バイオがAVを取り込む過程で、ラジカセなどを製造するオーディオ部門のビジネスに食い込んでいく可能性がある。レコードからCDにかわったように、消滅していく商品カテゴリーがあるのは仕方がないこと」と、パソコン部門とAV部門という現在の区分けを見直す必要があることを示唆する。
コンセプトは未成熟、著作権問題がネック
明確な戦略が描き切れていないAVメーカーもある。
ソーテックやイーヤマと組み、自社のAV機器を売り込むケンウッドは、「AV単体では、ITを積極的に取り込んでいるわけではない」と話す。パソコンとのインターフェイスはつくったものの、IT部分はソーテックやイーヤマに預けている格好だ。
「人」パソコンを手がける松下電器産業のグループ会社、日本ビクターAV&マルチメディアカンパニー新規事業開発部の早河智春副参事は、「単に松下と協業してAVパソコンをつくり店頭に並べてもだめ。すでに競合が先行しており、勝算は少ない。プラットフォームの段階からもう一度構築し直す必要がある。ADSLやFTTHなどブロードバンド環境が急速に整いつつあり、残された時間は少ない」と、焦りを顕わにする。
AVのIT化で重要な問題点も浮上している。ハードディスクへのコピーだ。ミュージックサーバーやデジタルライブラリなどは、音楽などのコンテンツをハードディスクにコピーし、エフェクト(特殊効果)をかけたり、好きな順番に編成できるのが特徴。このコピーについては、「グレーな部分が残っている」(オンキヨー大林担当部長)、「パソコンなどの家庭内LANにコンテンツを載せるのはセキュアじゃない」(パイオニア山本副参事)、「米国のAVパソコンの利用が先行していただけに、ナップスターのような違法行為も出てきてしまった」(ソニー木村執行役員)と、懸念を示す。
AV業界関係者は、「いつまでもセルCD(CDのパッケージ販売)の時代じゃないことは誰でも分かっているが、何といっても著作権者の意向が最優先。当面は、業界と著作権者とのせめぎ合いが続くだろう」と話す。
この問題を解決した後は、AVベンダーが開発した新しいコンセプトの製品を、実際の店頭でどう訴求していくかという問題も残る。AV売場なのか、パソコン売場なのかという、古くて新しい問題にもぶつかる。
最高の音と映像を再現するノウハウをもつAVベンダーは、いま、さまざまな切り口で新しい製品コンセプト、新しい売り方の模索を続けている。(安藤章司●取材/文)
AV(音響・映像)ベンダーが、ITとの接点を模索している。音響機器の老舗、オンキヨーは「サウンドプロセッサー」という独自の製品群を揃え、パソコンで高級オーディオの音質を出すシステムづくりに力を注ぐ。パイオニアは、リビングルームを機軸にした「デジタルライブラリ」(仮称)製品群の開発に着手。ケンウッドはソーテックやイーヤマと組み、AVパソコンを売り込む。総合AVメーカーの巨人・ソニーは、バイオを中心とした「ミュージックサーバー」の開発に突き進む。AVベンダーの取り組みを取材した。
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