その他
IT先進国へと変貌を遂げるカナダ(上) デジタル産業集積地区“マルチメディアシティ”
2002/11/25 15:00
週刊BCN 2002年11月25日vol.967掲載
豊富な資源に支えられ重工業で栄えてきたカナダだが、ここ数年間で産業の主役が急速に変化しつつある。先進諸国の中でも最先端といわれる情報通信産業を擁し、デジタル経済に立脚した新たな成長産業を築きつつある。特にアニメーションや特殊効果、デジタル処理などのマルチメディア分野は幅広い事業領域を網羅し、その成果が世界でにわかに注目を集めている。急速な勢いでIT先進国にのし上がってきたカナダを取材した。(木村剛士)
■IT産業関連企業が4000社集結
カナダ国内で、首都オタワがあるオンタリオ州に次ぐ企業集積地区といわれるケベック州。IT産業においても、情報通信機器、通信サービス、ソフトウェア分野など約4000社もの企業が拠点を置き、カナダIT産業の一翼を担っている。
そのなかで、モントリオール市の旧市街近くに「マルチメディアシティ」とよばれる一画がある。コンテンツ制作やマルチメディア産業に特化した企業約440社が集まる地域だ。
この地域は、ラシーン運河が1821年に開通してから、港湾倉庫街や金属工業などの重工業で栄えた地帯だったが、70年のラシーン運河閉鎖とともに重工業は衰え、90年代半ばには廃墟と化しつつあった。しかし、現在はマルチメディア産業に特化したIT集積地区に生まれ変わりつつある。その背景には、ケベック州政府が州を挙げて新産業地区へと変貌させようというユニークな取り組みがあった。
マルチメディアに特化したきっかけは、ここに拠点を置くマルチメディア関連のソフト開発を手がけるディスクリート社の存在が大きいという。
ディスクリート社は、96年に当時旧造船所だった場所を改装し、この地域に拠点を設けた。映画、ビデオ、放送、ゲームなど映像制作・編集・合成分野のソフト開発では世界的に高い評価を得ている。
99年には、同社を代表するビジュアルエフェクトシステム「infe rno(インフェルノ)」と「flame(フレーム)」がビジュアルエフェクト部門でアカデミー賞を受賞。日本においても95年から「フレーム」の販売を開始し、その翌年に日本法人を設立した。ソニー・コンピュータエンタテインメントやTBS、コナミ、セガなど数々の大手企業にその技術を提供している。開発拠点は4か所、海外営業拠点は9か所にまたがる。
■産業の成長を州政府がバックアップ
ケベック州政府は、ディスクリート社の成功を機に、地域活性化を狙いにマルチメディア産業に特化したIT促進プログラムを立ち上げた。
同政府は、97年にIT成長促進策「ITDC」プログラムを発表。マルチメディアシティ内の建物への入居を条件に、創業1年目の企業が優遇支援を受けられるプログラムを制度化した。
具体的には、ITに関わる従業員の給料の約40%や、IT設備購入費用の約40%を入居から3年以内は補助するという内容。また、創業5年以内の所得税、資本投資にかかる税金の免除などの優遇制度もある。カナダ国外の企業でも審査が通れば入居できる。
マルチメディアシティの開発・管理を行うプロジェクト責任者、イサベル・ジアソン氏は、「このような支援制度は他国・他地域にはない。国内外から多くの申請があり、半年で3つの建物が満杯になった。マルチメディアシティ全体の成長率は年間20-25%で推移している。各企業が刺激を受け合って、相乗効果を生んでいることが大きい」と胸を張る。
3つの建物が満杯になったのを受けて、98年にはマルチメディアシティ内の改修ビルをさらに7棟増やし、計10棟にする計画を発表した。また、創業1年目の企業以外にも入居できるようになり、設備購入費に対する支援と、税金免除以外で同様の優遇制度を受けられるようにした。貸しスペースは全体で15万平方フィートにも及ぶ。
こうした支援政策で、ケベック州政府はマルチメディアシティで10年間に1万人の雇用創出を目指している。現在、すでに約60社が入居しており、工事中の7棟が来年1月に完成すると、入居待機中の40社を含め、マルチメディアシティ全体の雇用は約5500人となる予定だ。
豊富な資源に支えられ重工業で栄えてきたカナダだが、ここ数年間で産業の主役が急速に変化しつつある。先進諸国の中でも最先端といわれる情報通信産業を擁し、デジタル経済に立脚した新たな成長産業を築きつつある。特にアニメーションや特殊効果、デジタル処理などのマルチメディア分野は幅広い事業領域を網羅し、その成果が世界でにわかに注目を集めている。急速な勢いでIT先進国にのし上がってきたカナダを取材した。(木村剛士)
続きは「週刊BCN+会員」のみ
ご覧になれます。
(登録無料:所要時間1分程度)
新規会員登録はこちら(登録無料)
ログイン
週刊BCNについて詳しく見る
- 注目のキーパーソンへのインタビューや市場を深掘りした解説・特集など毎週更新される会員限定記事が読み放題!
- メールマガジンを毎日配信(土日祝をのぞく)
- イベント・セミナー情報の告知が可能(登録および更新)
SIerをはじめ、ITベンダーが読者の多くを占める「週刊BCN+」が集客をサポートします。
- 企業向けIT製品の導入事例情報の詳細PDFデータを何件でもダウンロードし放題!…etc…