ヒューレット・パッカード（HP）創業者一族株主の反対など紆余曲折を経て、コンパック・コンピュータを買収・合併した新生HP社長に就任していた旧コンパックCEOのマイケル・カペラス氏が、11月中旬、突然退任を表明した。同氏はHPのカーリー・フィオリーナCEOと共に合併を推進し、合併後は旧コンパック社員の求心力も強く、チャネルからも期待されていた。新生HPは世界パソコン市場でトップの座をデルコンピュータに奪われ、さらにチャネル戦略の不明確さから、パートナーのHP離れを起こすなど苦難が続いている。フィオリーナCEOはカペラス氏の円満退社を強調する。しかし、右腕のカペラス氏を失うフィオリーナCEOの前途は多難と観測する米業界関係者は多い。

チャネル戦略の不明確さ響く

経営環境厳しい新生HP

　直近9か月のHP売上高は、旧コンパック合算の前年同期比で14％減、純損益も12億ドルの巨額赤字だ。合併で売上高はIBMに迫るが、IBMは同期34億ドルの黒字で、HPと収益力の差を見せつける。02年4-6月期、コンパック買収でHPの世界パソコンシェアは15.1％となり、デルの14.8％を抜いて念願のトップとなった。しかし、独り勝ちするデルは7-9月期に出荷台数を23％伸ばし、5％減のHPをたちまち逆転してしまった。

　また、両社のUNIXシステム統合で、フィオリーナCEOはコンパックUNIXをHP系列に統合すると発表し、コンパックの有力エンタープライズユーザーに大きな動揺を与えた。

　さらに合併後、HPのチャネル戦略は不透明のまま右往左往を繰り返し、パートナーに大きな混乱を引き起こした。IT不況感が特に強い米国では、メーカーのパートナー戦略にチャネル経営者は最大の関心をもつ。メーカー直販とチャネルとの競合を排除する明確なテリトリー区分をチャネルはメーカーに求める。この戦略決定でフィオリーナCEOは優柔不断であったと、多くのHPパートナーは不満をぶちまける。

両社不協和音の噂も

　HPはテリトリー分けとして全米850社の大企業はHP直販、他はすべてチャネル市場とする戦略「パートナーONE」を発表し、他社リプレース時のリベート支払いも公表した。しかし、この戦略は大型システムだけを対象とし、主力のパソコンやインテルサーバーでは直販とチャネル競合が日常茶飯事だと、多くのチャネルが語る。

　新生HPのパートナーたちは、オラクル、SAPなど業界経験豊かなカペラス氏に、HPの新戦略基準遵守の期待をかけていた。特にウィンテル商品中心の旧コンパックチャネルは、デルに顧客を奪われ続けていることもあって、カペラス氏の手腕に望みを託していた。

　合併後の両社出身社員の不協和音の噂も絶えない。旧2社の社員対立も激しいことを吐露する退社社員も多い。あるチャネル経営者は、「両社員の調整でHP幹部は新戦略遵守指示の徹底にも手が回らない」と語る。

　また、新生HPのパソコン事業責任者にパソコン直販部隊をもたなかった旧HP幹部が就き、エンタープライズでは経験豊かなHPではなく、旧コンパック幹部が就くという、たすき掛け人事も見られる。

　合併をフィオリーナCEOと共に推進したカペラス氏の退任理由についても、業界スズメの噂は多様だ。同氏は倒産したワールドコムのCEO就任を発表。もともとCEOの座への執着も強かったようだ。

　メリルリンチのアナリスト、ドーネ・ホフマン氏は、「フィオリーナCEOはルーセントなど全盛時代の通信業界しか経験しておらず、泥くさいIT業界の認識が浅く、カペラス氏とは合わない。IT業界の巨大合併は失敗の歴史だ」と、株価低迷のHPの先行きを懸念する。