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2003年、厳しさ増すIT業界 独自戦略で市場を切り開け!
2002/12/16 15:00
週刊BCN 2002年12月16日vol.970掲載
「来年の景気動向は、上向かないと考えるべき」(大塚商会・大塚裕司社長)。2003年の経営環境について、IT業界では今年同様、厳しい見通しを示す首脳陣が多い。顧客のIT投資も、来年はより慎重にならざるを得ない状況で、システムプロバイダ各社は生き残りに向けた新施策を矢継ぎ早に打ち出す構えだ。逆境のなか、限られた案件の中からIT投資を引き出すにはどうしたらいいのか。システムプロバイダ各社の来年の戦略を追った。(安藤章司●取材/文)
システムプロバイダ各社、来期の戦略とは
■改革に取り組む各社 来年以降の成長を目指す
大塚社長は、「IT投資の需要や意欲は感じられるものの、経済状況の厳しさから財布の紐が堅い状態が来年も続く。金融関係をはじめとする構造改革が進み、明るい兆しが見えれば万々歳だが、現実は厳しい。『V字回復』などと贅沢なことは言っていられない」と、来年の経済動向を予測する。
ことし1年を振り返ってみると、システムプロバイダ各社は、来年以降の成長に向けてさまざまな改革に取り組んできた。景気の見通しが悪く、顧客のIT投資が鈍ったからこそ、顧客企業と足並みを揃える形で各社とも真剣に改革に取り組む。
2年間のリストラを経て、今年度(2003年3月期)は通期で最終黒字が出るまで回復した富士通ビジネスシステム(FJB)は、マイクロソフトの「.NET」上で動くウェブサービスに主眼を置いた自社開発システムで中興を狙う。
「もはやTCO(システム総保有コスト)削減ではない。今後、情報システムの主流になると見られるウェブサービスをベースに、『業務改革』『ビジネス拡大』の実現」(清水吉治・取締役マーケティング本部副本部長)を提唱していく。
00年10月に、三菱商事系のIT企業5社を統合して設立されたアイ・ティ・フロンティアは、今年で約2年間の合併調整期間の終了を宣言。来年以降、商社出身のシステムプロバイダならではの柔軟な営業スタイルを確立し、「顧客企業のCIO(情報統括責任者)のITパートナーになる」(木寺隆造社長)と意気込む。
情報システム部門の予算だけでは、新しいIT投資案件を引き出せない。経営トップに費用対効果を直接訴求し、戦略的IT投資を引き出さなければ、今後の成長は見込めないからだ。
IT投資に対してシビアになっているのは、民間企業だけではない。IT業界にとって、大規模な投資が見込まれるはずだったe-Japan計画においても、予想以上に厳しい受注獲得競争が続いている。
富士通の羽鳥誠一郎・公共営業本部e-Japan推進統括部長は、「合併特例法に基づく市町村合併により、顧客となる団体数が急速に減っている」と指摘。
そのうえで、「アクセンチュアやNTTデータ、NTTコミュニケーションズなど、地方公共団体市場での競合企業が増えた。合併で1案件当たりの投資金額が膨らんでいることから、案件を1つでも取りこぼすと大きな損失につながる」と警戒する。
自治体市場においても、民間企業と同様に、IT予算だけを当てにしていては先細りになる懸念が強い。このため、体力のある大手システムプロバイダを中心にして、ITの枠組みを超えた新しい形の商談が自治体との間で進んでいる。
端的な事例がアウトソーシングである。e-Japan計画に基づく電子自治体の情報システムをシステムプロバイダが丸ごとアウトソーシングで受注し、当該県や市町村内にデータセンターなどの基盤設備を整備する。これにより、新規雇用を創出すると同時に、システムプロバイダ側もリスクを負う仕組みだ。
自治体は、データセンターの周囲に、IT関連の開発拠点や公園、道路をつくり、地域全体の活性化を狙っている。e-Japan計画という公共投資の究極的な目標が地域産業の活性化や雇用創出である点を考えれば、自然な流れでもある。
■雇用創出の役割を担う、顧客の利益を最大化できるか
ただ、こうした商談はすでにIT予算の範疇だけでは語り切れないものがある。地方公共団体に詳しいNTTデータの牧野兼明・電子自治体ビジネス推進部長は、「雇用創出まで含めた包括的な商談は、大手を中心にどのシステムプロバイダでも進めている」と話す。
自治体、民間企業のいずれにおいても、情報システムという枠組みを超えて、顧客の事業全体を見据え、さらに顧客に利益をもたらす仕組みをつくることが、強いシステムプロバイダ、あるいはそうでないシステムプロバイダとの差別化に結びつく。木寺社長が、「顧客企業のCIOのITパートナーになる」と標榜するのはこのためだ。経営者のパートナーとして、どのベンダーのどのハード、ソフトを使えば、費用対効果が最大になるのかを考え、ベンダーを使い分ける。
日本アイ・ビー・エム(日本IBM)系の日本ビジネスコンピューター(JBCC)は、他社との提携戦略を推進する一方で、自社開発の情報システムの拡充にも力を入れている。また、財務や人事など自社の基幹業務システムを受け持つ部署約100人を今年4月、丸ごとジェイ・ビー・エス・エス(JBSS)の社名で子会社化(=アウトソーシング化)した。年内一杯は従来通り本社業務のアウトソーシングだけを担当するが、来年からは他社業務のアウトソーシングも受け付ける体制をつくる。JBSSのトップは本社役員と兼務だが、来年以降、専任の社長を据える。
JBCCの石黒和義社長は、「日本IBMのように顧客企業の基幹業務部門を丸ごと買い取るような体力はないが、まずは自社の基幹業務部門を外に出した。しかし、ただ外に出すだけでは、そこで働く社員は『分けられて、差をつけられた』と受け止め、立ち行かない。そうではなくて、当社だけでなく外部からのアウトソーシング案件を受注することで、100人のコストセンター(間接部門)を100人のプロフィットセンター(収益部門)に切り替える」との狙いだ。
民間、自治体を問わず、03年のIT業界を取り巻く環境は、今年以上に厳しいと見るべきだ。この状況下で、システムプロバイダはどこまで自社内のコストを下げ、顧客の利益を最大化できるかが成長のポイントになる。顧客と一体となり、情報システムの枠組みを超えた“経営支援”が生き残りのカギとなりそうだ。
「来年の景気動向は、上向かないと考えるべき」(大塚商会・大塚裕司社長)。2003年の経営環境について、IT業界では今年同様、厳しい見通しを示す首脳陣が多い。顧客のIT投資も、来年はより慎重にならざるを得ない状況で、システムプロバイダ各社は生き残りに向けた新施策を矢継ぎ早に打ち出す構えだ。逆境のなか、限られた案件の中からIT投資を引き出すにはどうしたらいいのか。システムプロバイダ各社の来年の戦略を追った。(安藤章司●取材/文)
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