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<BCN REPORT>近畿車両の取り組み 財務会計ソフトから全社IT改革へ
2003/06/02 15:00
週刊BCN 2003年06月02日vol.992掲載
ITの導入で競争力を着実に高めた企業がある。鉄道車両製造の近畿車輛(伊與田浩一社長)は、PCサーバー上で動く会計ソフトを導入し、間接部門の人員削減と迅速な決算発表を可能にした。今年度(2004年3月期)は、上場以来初の四半期決算を実施する。また、連結子会社にも同じ会計ソフトを導入する。経理部門のIT化を手始めに、製造部門の原価計算や部材調達などの効率化を推し進めることで、コスト削減に努める。(安藤章司)
決算処理を迅速化
■「スーパーストリーム」を導入
近畿車輛が導入したのは、エス・エス・ジェイ(SSJ、佐藤祐次社長)の財務会計ソフト「スーパーストリーム」。SRA(鹿島亨社長)の関西支社が納入した。商談規模は約5000万円。
それまでは日本ユニシスのメインフレームを使っていたが、02年3月に最終的な保守契約を打ち切り、同年4月からスーパーストリームに一本化した。
財務会計ソフトの刷新にともない、近畿車輛は、日本ユニシスを含む計9社に見積もりを依頼した。その結果、価格や機能面など、「われわれの要求に最も適していた」(吉沢瑞成・近畿車輛取締役経営管理室部長)ことから、スーパーストリームを担ぐSRA関西支社が受注した。
SRAはスーパーストリームを、ウィンドウズ2000をベースに、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)のPCサーバー上に構築した。
SRAの深海善彰・関西支社長は、「近畿車輛とは、スーパーストリームの納入が初めての取り引きとなる。今後とも長いお付き合いを続けていきたい」と語る。
近畿車輛は、通期の決算発表はこれまで5月24日に行っていた。だが、財務会計ソフトの刷新により、今年は連結決算の発表を5月21日に前倒しすることが可能になった。2週間近い前倒しになる。また、導入前は13人で行っていた会計業務を9人に減らすことができた。
■決算処理業務が効率化
今回の決算発表では、経常利益を当初予定の22億円から約36%増の30億円に上方修正した。
当期純利益も同様に17億円から約37%増の23億円に。純利益ベースでは、過去最高クラスの好成績になった。
財務会計システムの立ち上がりに臨んで、幸先の良いスタートである。
今年度(04年3月期)は、まず、連結対象の子会社であるケーエステクノス(年商約50億円)に、親会社(近畿車輛)と同様の財務会計ソフトを導入する。同時に、四半期決算を実施することで、最終的な年度末決算の発表日をさらに前倒しする方針である。
SSJの佐藤社長は、「スーパーストリームでは、原則として連結子会社を含めて計4社までは親会社の導入費用のなかに含まれている。連結会計を早期に実現してこそ、本来の性能が発揮できる」という。
■社内改革にも取り組む
近畿車輛では、財務会計ソフトの刷新だけでなく、社内改革にも余念がない。
吉沢取締役は、「財務会計ソフトを刷新して、四半期決算や迅速な連結決算、間接部門の人員削減を実現するなど、経営管理室でやれることは、一通りやった。これ以上の合理化は各部門の協力が欠かせない」と話す。
その第1段階として着手するのは月次決算の迅速化である。現在、社内の各部門から出された出入金の伝票処理には、月末から5営業日ほどかかる。
吉沢取締役は、「株主に対する迅速な情報開示および経営指標のリアルタイムな把握などを考えれば、月次決算の迅速化はもとより、日次決算も視野に入れた改革が必要だ」と指摘する。
「主力商品の鉄道車両は、月末にまとめて出荷しているわけでない。日々の業務のなかで常に仕入れや出荷が発生している。これに関する伝票を起こした担当者(起票者)がその都度入力することが望ましい。人間だって、月末にまとめて食事するわけにはゆかないのと同じで、日々の起票(食事)が欠かせない」と、社内各部署を説得してまわる。
「われわれ経営管理室が、人員削減やITによる業務の効率化を実践してこそ説得力が出てくる。全社の各部門の協力が得られるようになれば、四半期決算はもとより、月次決算や日次決算、さらには4月中の本決算開示も夢ではない」と話す。
「取り引きが発生した翌日の午前中までに起票しないと、一律、受け付けないような情報システムの構築も考えた。しかしそこまですると行き過ぎの感もあった。まずは、社内意識の改革を進める」という。
■資材調達のIT化も
その次の段階では、資材調達のIT化を進める。鉄道車両の業界では、鉄道会社など最終ユーザーが仕様や品質など厳しい条件を出してくる。
例えば、特定の部品は、特定のメーカーのものを使うようになどの要求が出ることが多いという。これでは、ITを駆使した幅広い調達はしにくい。
吉沢取締役は、「今はそんな時代ではない。品質を堅持しつつ、コストを抑える努力が、よりいっそう求められている。仮に『100%の品質』をユーザーが求めるとすれば、われわれメーカーは『100%の品質』を実現する。ただし、ITを駆使した資材調達の幅をもっと広げられないかどうか、メーカーの側からユーザーに働きかけていきたい」と話す。
経営管理室から始まったITを駆使した業務改革の波は、今、全社に広まろうとしている。
財務会計ソフトの導入は、小さな一歩に過ぎない。
これを皮切りに、製造部門などのIT化を進め、収益力を高める計画だ。
【会社概要】
1920年(大正9年)に創業した歴史ある車両製造メーカー。昨年度(03年3月期)の売上高は前年度比6.6%減の467億円だったが、経常利益は前年度実績1億3000万円を大幅に上回る30億円。今年度(04年3月期)の売上高は480億円、経常利益は30億円を目指す。
川崎重工業、日本車輌製造、日立製作所に次ぐ大手鉄道車両メーカーで、年間250-260両を生産する。昨年度実績では、鉄道部門で約6割が米国や香港などへの輸出が占め、国内向け出荷は約4割程度。米国では環境保全などで近郊電車が見直されている。路面と床の間が約30センチで、乗り降りが容易な低床式LRV(ライト・レール・ビーグル)車の需要が急拡大しているという。
ITの導入で競争力を着実に高めた企業がある。鉄道車両製造の近畿車輛(伊與田浩一社長)は、PCサーバー上で動く会計ソフトを導入し、間接部門の人員削減と迅速な決算発表を可能にした。今年度(2004年3月期)は、上場以来初の四半期決算を実施する。また、連結子会社にも同じ会計ソフトを導入する。経理部門のIT化を手始めに、製造部門の原価計算や部材調達などの効率化を推し進めることで、コスト削減に努める。(安藤章司)
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