その他
パソコンの秋冬商戦に影響 SARS禍がじわじわ浸食
2003/06/02 15:00
週刊BCN 2003年06月02日vol.992掲載
中国など世界で猛威を振るう新型肺炎SARS(重症急性呼吸器症候群)は、日本の代表的なメーカーを直撃し始めた。松下電器産業の中国子会社は、感染者が出た影響で生産ラインがストップするなど実被害が生じている。5月中旬以降、パソコン関連の大手製造各社は、SARS感染の長期化に備え部材調達を急いでいるほか、操業停止などを見越し生産拠点の見直しを図るなど“緊急管理体制”を敷いた。日本国内に影響が及んでいないだけに、企業によっては「当面は様子見」と傍観する見方がある一方、秋冬商戦への影響を心配する声も出始めた。米同時多発テロ、イラク戦争に引き続き、企業の危機管理のあり方が再度問われている。(SARS問題取材班●取材/文)
長期化に備え部材調達急ぐ
■子会社の社員が感染、操業停止の工場も
5月17、18の両日、中国に製造子会社をもつ日本の大手製造メーカー各社に緊張が走った。松下の中国子会社で、中国人社員5人がSARSに感染していることが判明。SARS禍の緊急対策で現場は一時混乱した。
松下では、中国内で2工場の生産ラインが操業停止に追い込まれたが、「カラーテレビ用のブラウン管は、当社のマレーシアに生産をシフト」して当座をしのいだ。
事前策の必要性が高まった東芝でも、「中国内の生産拠点にSARS感染者が出た場合、日本国内など複数の拠点に製造を移す」ことを想定した生産スキームを構築した。
日立製作所は、「実被害がなく、現時点では様子見」としつつも、SARS問題が長期化した場合を想定し、「台湾から調達しているパソコン部材は、通常の調達より数量を増やしている」と警戒を強める。意外と冷静なのがNECで、「現段階では影響がなく、具体的な対応策は計画してない」としている。
ソニーでは、ソニー香港の中国人社員にもSARSの擬似感染者が出た。後に疑いは晴れたが、同社は各部門長らによる「危機管理委員会」を設置した。すでに、「中国製の部材調達を積み増すよう、本社から中国の拠点に指示が出ている」という。SARS感染による生産ラインなどの操業停止を想定した場合、1つの調達先だけでは潤沢な部材調達が困難になる。SARS感染の深刻化を念頭に置き、新規調達先の開拓を検討する動きも活発化しそうだ。
調査会社のIDCは5月26日、SARSがもたらすアジア・パシフィック地域(日本を除く)のIT投資への影響度を示した。
2003年の同地域でのIT投資は、第2四半期が当初予測(771億ドル)を4.7%下回ると分析。ただ、第3四半期には、その差が0.9%まで縮小。第4四半期以降は、「SARSに関連した影響で当初予測を下回ることはない」と報告している。
中国のパソコン市場は、現地企業の製品シェアが一般消費者や教育、政府などの各部門で高く、「SARS感染がさらに深刻化すれば、中国内の企業に業界再編が起こる可能性はある」(IDC)とする。だが、日本メーカー製のパソコンシェアは低く、中国の内需低下による日本メーカーへの影響は少なそうだ。
■コンピュテックス台北は延期、新製品の開発に遅れ
5月28日の一般紙朝刊に、台湾の台北市で6月2-6日に開催予定だった「第23回COMPUTEX TAIPEI 2003(台北国際コンピュータ展2003)」の延期(03年下半期)を伝える「お詫び広告」が一斉に載った。
パソコン市場に詳しいある専門商社関係者は、延期という事態について「6月に開催しないと、本来の意味をなさない」と懸念する。秋にはアメリカでコムデックス見本市、春にはドイツでセビット見本市がある。「それぞれに分担がある。時期をずらして済む問題ではない」というのだ。
COMPUTEX(コンピュテックス)は、台北市同業協会(TCA)と対外貿易振興協会(CETRA)が主催する国際見本市で、当初の目的は「台湾メーカーのための展示会」だったが、現在では海外のメーカーも数多く出展。世界のサプライチェーンやバイヤーが集まる取引市場として重要度を増し、欠くことのできない“コンピュータショー”に成長。昨年は約1100社が出展している。
同専門商社では、この延期の影響で毎年のスケジュールに狂いが生じつつある。見本市での商談など、人的交流に支障を来たすため、「秋冬商戦に向けたパソコンの新製品開発に影響が出そうだ」という。日本の商社マンですら「台湾から戻ってきた」というだけで、日本側の上場企業を中心に「やんわりと面会を謝絶」されるそうだ。明らかに例年に比べ商談のスピードが“スローダウン”している状態といえる。
ネットワーク関連機器市場に詳しいある専門商社幹部も、「コンピュテックス延期」で先行きの不安に怯える。見本市にはIP電話や無線LANなど戦略的なネットワーク機器が出揃い、同機器関連の商社は、日本から顧客を台湾に連れていく“バイパス役”を果たすが、人的交流は事実上ストップしている。
ネットワーク関連機器は、単価下落が激しい。新規商材がなければ量産効果でみるみる安くなる。同社が“絶好の商機”を逃すことは明らかで、「日本のメーカーが台湾メーカーに発注するネットワーク関連機器の額は、仮に今の状態(渡航自粛など)が続くと、今秋には前年同期比で3割程度のマイナスになる」と弱気になっている。
日本国内のソフトウェア業界では、中国のソフト会社と協業する企業にSARSの影響を懸念する声が広がる。
中国・北京市のソフト会社と提携し、セキュリティソフトを共同開発するデジターボは、「新製品の開発に遅れが出ている」としたうえで、「今後も長引けば新たな提携先を探す必要がある」と頭を痛める。
中国・大連市とソフト開発などで協力協定を結んでいるコンピュータシステム会社のSRAも、「いくつかのプログラムでスケジュールの延期は否めない。善後策を検討中」と、実務レベルでの影響が出始めている。
中国・上海市に現地法人を持ち、現地のソフト会社と販売代理店契約を結んでいるイーフロンティアは、「担当者の出張をすべて禁止することはできない。帰国の際は(SARSの潜伏期間とされる)10日間の自宅待機を義務付けている」と話す。
セキュリティ会社のトレンドマイクロも、WHO(世界保健機関)の渡航規制・勧告をもとに独自の基準を設けた。現在は、アジア地域で中国全土、台湾、香港への出張を禁止している。
日本を代表する大手メーカーや周辺機器業界、ソフト会社だけでなく、IT機器の売買をバイパスする商社などが、SARSの影響を直接的にこうむれば、パソコン関連業界の秋冬商戦に向けた新機種発売などで、連鎖的な被害が及びそうだ。世界展開するIT業界の危機管理能力が、改めて問われている。
中国など世界で猛威を振るう新型肺炎SARS(重症急性呼吸器症候群)は、日本の代表的なメーカーを直撃し始めた。松下電器産業の中国子会社は、感染者が出た影響で生産ラインがストップするなど実被害が生じている。5月中旬以降、パソコン関連の大手製造各社は、SARS感染の長期化に備え部材調達を急いでいるほか、操業停止などを見越し生産拠点の見直しを図るなど“緊急管理体制”を敷いた。日本国内に影響が及んでいないだけに、企業によっては「当面は様子見」と傍観する見方がある一方、秋冬商戦への影響を心配する声も出始めた。米同時多発テロ、イラク戦争に引き続き、企業の危機管理のあり方が再度問われている。(SARS問題取材班●取材/文)
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