その他
ソフト市場を活性化するか? ソースネクストの1980円戦略
2003/06/16 15:00
週刊BCN 2003年06月16日vol.994掲載
ソースネクストが発表した、ソフトパッケージの単価を1980円とする「コモディティ戦略」が大きな波紋を呼んでいる。いまのところ、すぐに追随する意向を表明した競合メーカーはないものの、多くのメーカーがそのシェア推移に注目。「シェア拡大が短期的なものでないとすれば、当社としても価格戦略の変更を検討したい」と口を揃える。しかし、その一方で販売店からは、「これまでもソフトの粗利率は低かったが、その傾向を強めることになるだけではないか」と懸念の声も挙がっている。果たして、ソースネクストの1980円戦略がソフト流通にもたらしたものは何なのか。(三浦優子●取材/文)
動向を注視する競合メーカー
■低価格化コモディティ戦略、書店での販売も開始
「ソースネクストは確かに、3月下旬の発売から好調な売れ行きをみせているようだが、これ以上の伸び率を続けていけるかは疑問。現段階での追随はない。だが、いま以上の伸び率を今後半年も続けるようなことがあれば、当社も考えなければならないだろう」――。シマンテック・成田明彦社長は、ソースネクストがセキュリティ製品の価格を1980円としたことに、こうコメントする。
当面は静観するものの、状況が変われば追随は可能というシマンテックの見方は、ソースネクストの競合製品をもつ他のソフトメーカーと共通する。
筆まめシリーズを販売するクレオの大森俊樹・コミュニケーション事業本部筆まめソリューション部長は、「採算を度外視した勝負をするつもりはない。当社はパブリッシャーではなく、ソフト開発会社。採算ギリギリのところで商売を続ければ良い商品を作ることができなくなる」と語る。
低価格戦略にこうクギをさしながらも、1980円が各社共通の価格帯となるような事態が起これば、「状況を静観し続けるかどうか、改めて判断する必要があるかもしれない」と微妙な発言をする。
ソースネクストでは、「2月にコモディティ戦略の第一弾を発表後、BCNランキングの2003年第1四半期シェアにおいて、当社がマイクロソフトを抜いてトップとなるなどシェアは上昇。戦略は成功した」として、5月23日には主力商品「速シリーズ」でも1980円での販売を開始した。年内に100タイトルの1980円商品を揃えると強気なところを見せる。
パソコンショップ以外の販路を拡大するという戦略についても、「書店での取り扱いを現行の700店から3000店へと拡大する」意向だ。
さらに、大型スーパー、東急ハンズ、コンビニエンスストアなどに販路を拡大し、「05年時点では、パソコンショップと、それ以外のチャネルの販売比率を5対5にしたい」という。
ソースネクストの動向に大きな注目が集まるのは、1980円という価格のインパクトもさることながら、ここ数年、沈滞するソフト市場のなかで、同社が台風の目となって市場をリードしてきた結果に他ならない。
ソースネクスト・松田憲幸社長は、価格を引き下げ、販路を拡大する理由を、「パソコンソフトは、ハードの出荷台数に比べて販売本数が少なすぎる。ゲームにしか使われないプレイステーション2はハード1台あたり約3タイトルが売れているにもかかわらず、パソコンはハード1台あたり2分の1本に過ぎない」と説明する。
その上で、「これは、価格が高く売り場が身近にないためだ。ソフト売り場はパソコンショップの2階、3階にあり、目的をもったユーザーしか足を向けない。書店であれば、ユーザーは気軽に立ち寄る。しかも1980円という価格なら、買うつもりではなかったソフトを手に取ってもらえる」と強調する。
実は「ハードに対し、ソフトが売れない」というジレンマは、他のソフトメーカーからも聞こえてきていた。ソースネクストの動向を競合メーカーは注視している。
■課題は粗利益の低さ、ソフトのデフレ化も懸念
だが、ソースネクストの戦略に懐疑的な見方もある。
トレンドマイクロの箕浦幸雄・第二営業本部長は、「アンチウイルス対策ソフトへの要望に関する当社のアンケート調査では、1位は機能、2位には信頼性で、価格は3位だった。価格を1番に考えているユーザーは全体の13%で、価格が必ずしも重要なポイントとは捉えていない。1980円という、これまでにない価格にユーザーが最初飛びつくのは計算済み。今後、いま以上の伸びはあり得ないのではないか」と、価格インパクトだけでこれ以上シェアを伸ばすのは難しいのではないかとの見方を示す。
クレオの大森部長は、書店でのソフト販売に対して、「書店での販売は、これまで何回もチャレンジされてきたが成功していない。値引き販売が当たり前のパソコンショップと異なり、書店は定価販売。同じソフトをパソコンショップでは値引きし、書店では定価で販売するとなると、お客さんがどちらを選ぶのかは明らかではないか」と指摘する。
確かに、商品価格の引き下げ、書店など新たな販路の拡大という施策は、決して目新しいものではない。多くのメーカーが取り組んできたものの、思ったほど成功を収めていないのが実情だ。
BCNランキングによると、ソースネクストのシェアは1980円戦略以降拡大しているものの、5月のビジネスソフト市場は本数で前年同期比14%減、金額で同17%減となっている。松田社長が狙うソフト市場の活性化には今のところ結びついていないようだ。
ある販売店幹部は、パソコンショップのソフト売り場が活性化していない理由を、「ソフトの粗利率が低すぎること」だと指摘する。「ソフトは粗利率が低いため、ソフト売り場を広げるよりも、粗利率の高いデジタルカメラ、シリコンオーディオプレーヤー、書籍などの売り場を広げた方がプラスになる」というのだ。
この粗利という観点で見れば、ソースネクストの1980円戦略は販売店にとっては有り難くない。
パソコン業界の外に目を移せば、デフレによる価格下落がメーカー、市場にマイナス影響を与えているケースも少なくない。
果たして、ソースネクストの1980円戦略は、単純なデフレ化をもたらすだけに終わるのか。それとも新たに市場を活性化することになるのか。単純なデフレ化だけが進行してしまえば、ソフト市場にとって大きな打撃となることは言うまでもない。
ソースネクストが発表した、ソフトパッケージの単価を1980円とする「コモディティ戦略」が大きな波紋を呼んでいる。いまのところ、すぐに追随する意向を表明した競合メーカーはないものの、多くのメーカーがそのシェア推移に注目。「シェア拡大が短期的なものでないとすれば、当社としても価格戦略の変更を検討したい」と口を揃える。しかし、その一方で販売店からは、「これまでもソフトの粗利率は低かったが、その傾向を強めることになるだけではないか」と懸念の声も挙がっている。果たして、ソースネクストの1980円戦略がソフト流通にもたらしたものは何なのか。(三浦優子●取材/文)
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