新たなIT国家戦略「e-Japan戦略II」の策定を受けて、戦略を具体化する施策をまとめた年次計画「e-Japan重点計画-2003」が来月上旬にも正式決定する。今回の重点計画-2003では原案段階で、昨年の重点計画-2002の318施策を上回る365施策が担当府省、実施年限を明記して盛り込まれた。特に注目されるのは、民間有識者などによって、施策の実施状況を事後評価するとともに新たな施策の提案も行う専門調査会を設置することを打ち出した点だ。IT利活用の促進に向けて重点計画も充実してきた。(千葉利宏(ジャーナリスト)●取材/文)
7分野で先導的取り組み
インフラ整備からIT利活用まで
e-Japan重点計画-2003は、重点計画の名称で策定されたものでは3代目。来年度予算の概算要求が出揃う8月の前に重点計画が策定され、秋と春の年2回、推進状況をフォローアップする体制も定着した。従来の計画と比較しながら、新しい重点計画-2003(原案)を見てみよう。
■計画の全体構成
e-Japan重点計画は、2001年1月に策定された「e-Japan戦略」を受けて、同年3月に「e-Japan重点計画」が取りまとめられたのが最初。00年11月に成立したIT基本法やe-Japan戦略には、「世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成」や「人材の育成と教育・学習の振興」などの5分野で重点的に政策を展開していく方針が明記されており、この「重点政策5分野」に対応した政策を中心に202施策が盛り込まれた。また、重点政策5分野に横断的に関わってくる「研究開発の推進」や「デジタル・ディバイド(情報格差)の是正」なども「横断的課題」として加えられたが、当初は充実していなかった。
02年6月に策定された2番目の「e-Japan重点計画-2002」では、重点政策5分野に加えて、「横断的課題」5分野を明確化。施策数も220から318へと拡充された。
今回の「e-Japan重点計画-2003」では、従来の重点政策5分野、横断的課題5分野に加え、e-Japan戦略IIに新しく盛り込まれた「先導的取り組み7分野」に対応する施策群が加わり3本立て構成に。インフラ整備からIT利活用までを広くカバーする計画へグレードアップした。
■先導的取り組み
医療、食、生活、中小企業金融など7分野におけるIT利活用の推進に関しては、e-Japan戦略IIでかなり詳しく書き込まれており、重点計画-2003にはその内容を踏まえた97施策が盛り込まれた。7分野に関しては、「評価に当っての具体的な考え方」との項目が加わり、重点計画の事後評価を行う専門調査会が設置されるのを受けて、評価の考え方を事前に公表している。
例えば、医療では「患者本位の医療が実現し、医療の質向上と、選択肢の拡大が達成されたか」、食では「消費者が食品に対する正確で十分な情報を入手できるようになったか」などを挙げている。評価の基準を設定したことで、1つひとつの施策の狙いがよりわかりやすくなったと言えるが、IT戦略会議の場では日本アイ・ビー・エム(日本IBM)の大歳卓麻社長から評価の各項目について数値目標などの測定可能な指標の設定を求める意見も出され、専門調査会による事後評価への関心は高い。
■重点政策5分野 e-Japan戦略IIで新たに打ち出された方針に基づいて、重点政策5分野の計画内容も大きく見直された。「世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成」の部分では、「高速インターネットに3000万世帯、超高速インターネットに1000万世帯が利用可能な環境をめざす」との従来目標が、「05年までに同3000万世帯、同1000万世帯が利用する」に書き換えられたほか、「08年までに高速の無線LANシステムなどが全国的に利用できるような環境を整備する」などが新たに加わった。
「人材の育成と教育・学習の振興」の部分では、「IT関連の修士、博士号取得者を増加させるなど、高度なIT人材を広範に育成する」との目標を最初に掲げ、政策の力点を高度な人材育成へとシフト。「電子商取引等の促進」では、普及に向けた数値目標は従来と同じままだが、「企業には、取引の電子化を促進するだけでなく、ITの活用により既存のビジネスの無駄を排除し、経営資源を有効活用することが求められている」とBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)の重要性を書き加えた。
「行政・公共分野の情報化」では、04年のITS(高度道路交通システム)世界会議、05年の愛・地球博の開催を控えて、世界最先端のITSの実現を強調。「高度情報通信ネットワークの安全性と信頼性の確保」の部分は大幅に書き直され、05年までにDoS攻撃やコンピュータウイルスなどによる被害を最小限にするための技術的ガイドラインの策定や専門的な監査の実施体制の確立など、目標を具体化した。
■横断的課題 5分野のうち一段と厚みを増したのが、「研究開発」と「国際協調」だ。研究開発では新たに「ユビキタスネットワーク化」が加わったほか、ソフトウェア技術、情報セキュリティ技術、ヒューマンインターフェイス技術の強化を打ち出した。国際協調では、今年3月に策定された「アジア・ブロードバンド計画」を踏まえてアジア各国との協調関係構築が盛り込まれた。「社会経済構造変化にともなう新たな課題への対応」では、雇用問題への対応として「テレワーク・SOHOの導入促進」に関する部分が大幅に書き加えられ、施策の充実が図られた。