発売以来好調なDVDレコーダー「DIGA(ディーガ)」とPC用ドライブである「DVDマルチドライブ」の相乗効果により、松下が提唱するDVDワールドがさらなる拡大をとげている。現在ビデオデッキの全世界の総需要は5~6千万台と推定されるが、これが今後ビデオデッキとビデオレコーダが加速度的に置き換わると松下ではみている。「□(テープ)から○(ディスク)へ」のDIGAのCMをご覧になった方も多いだろう。今年から来年にむけて早期に月産100万台体制を確立し、一気にRAMフォーマットのデファクト化を目指しているようだ。DVDワールドの拡大を目指す松下電器の戦略を伺った。
マルチドライブで市場をリード
■進化し続けるDVDドライブ
松下電器産業がDVD-RAMを市場に投入したのは、1998年1月。容量2.6GBのDVD-RAMであった。その後、4.7Gの大容量化に対応するとともに、RAMフォーマットを基本としながらも、DVDフォーラムの規格であるDVD-R、DVD-RWまでサポートした製品を開発。DVD-RAM・DVD-R・DVD-RW・CD-R・CD-RWをサポートするDVDマルチドライブを昨年12月に発売した。お客様に安心してお使い頂くためには、どのようなフォーマットにも対応出来る互換性を最重視し、マルチ化が必然であった。
また、技術革新を背景に、ドライブは大容量化とともに高速化もすすめており、2003年8月には、RAM 3X、DVD-R 4Xに対応した「LF-M621JD(内蔵モデル)」、9月には「LF-M660JD(外付けモデル)」の2機種が発売される予定である。
松下のDVDマルチドライブには、DIGAで録画した映像をパソコン上で見ることができる
DVDMovieAlbumSE3が添付されている。このソフトは、DIGAでDVD-RAMに録画した映像の簡単な編集も可能で、AV機器とPCで映像のやり取りができるようになっている。また、別売のMotionDVStudioを使えば、映像の加工も簡単であり、オリジナルの映像作品も作成出来る。なお、MyDVD4(添付済み)を使えば、互換性が高いDVD-Rに映像を保存。DVDレコーダーだけでなく、一般的なDVDプレイヤーでの再生もできるようになる。
「これまでは特殊な機材やノウハウを必要とした動画処理が、一般のユーザーでも簡単にできるようになってきています。私どものDVDマルチドライブをご購入いただいたお客様のアンケートによると、実に半数のお客様がDIGAもご購入いただいたことがわかっています。パソコンとDVDレコーダーの距離の縮まりを実感しています」と、松下電器産業PCDグループ、原昭一郎グループマネージャーは語った。
一部の愛好家だけのものだった「映像を自由に加工し編集して楽しむ」世界が、一般的なユーザーにも楽しめる時代になってきているということだろう。
■10万回書き込みとデータ保護が決め手
DVD-RAMメディアは、SDメモリカードとともにパソコンとAV機器をつなぐ「ブリッジメディア」である。そのDVD-RAMメディアの最大の特徴は、「10万回書き込み可能」ということだ。この数字に表される耐久性が、ユーザーへの安心感を与えているという点も見逃せない。
さらに使い勝手の面でも優れた特徴を持っている。DVD-RAMに記録したデータは、MOやハードディスクのようにエクスプローラなどでドラッグアンドドロップ・カットアンドペーストの操作が簡単にできるし、1枚のディスクにMPEG2やJPEG、EXCELのデータのような形式が異なるデータを混在して記録することができる。
また、大切なデータや映像が、汚れや破損によって失われることがないようカートリッジタイプのメディアも提供しており、家庭での使用シーンもそうだが、特に条件の厳しい環境下で利用する業務用ビジネスユーザーには大変好評を得ている。
「業務によっては、過酷な環境でご使用になる場合があります。カートリッジで保護されていれば、ホコリや指紋によってデータが損なわれることがなく、10万回の耐久性も併せ、ビジネスユースでも安心してご使用いただけます。個人で使う場合も、結婚式やお子様の成長記録などメモリアルな映像の保存にもカートリッジ方式なら安心です。松下は、今後ともカートリッジ方式をサポートしていきたいと考えています」(原マネージャー)
長年、家電商品を手がけてきた松下らしい考え方ではないだろうか。
■先進的な製品を開発するには、エンドユーザの声が重要
DIGAと比較すると、Panasonicブランドのパソコン用ドライブの出荷は多くない。それでも、あえてPanasonicブランドとして供給する背景には、ユーザーの声を商品開発に反映させていく狙いがあるからだ。
「自社ブランドを展開するということによって、お客様とダイレクトに向き合い、直接市場の声を聞くことができます。市場からのシグナルは、商品開発にフィードバックしたり、プロモーション活動やPSIの参考にするなど、マーケティング活動全般に不可欠なものです」(原マネージャー)
松下電器では、ご購入後のお客様の声を直接お聞きするために「マイパナソニックスペース(通称まいぴー)と周辺機器のサポート部門である「P3カスタマサポートセンター」を運営している。
「まいぴー」とは、パナソニック製品を購入し、オンライン(WEB)でユーザー登録をしていただくことで、そのお客様にあった商品情報・イベント案内・用途提案などの情報をカスタマイズして提供する松下独自のCRMツールである。当初パソコンの周辺機器専用の登録システムであったが、現在ではDIGAやデジカメ「LUMIX」をはじめとした家電製品にもその範囲を拡げ、会員数は急速に拡大しているとのことであった。
一方のP3サポートセンターは、周辺機器専用のサポートセンターである。ここに寄せられた情報は開発サイドに逐次連絡され、商品に反映されていっている。パソコンの周辺機器という特性上、松下商品以外の製品やネットワークへの接続などシステム全般へのサポートが要求される。非常に広範な問い合わせを受けることになるため、サポートメンバーの対応スキルの向上、またそのノウハウも年々蓄積されている。
こうしたスキル・ノウハウを蓄積することで、自社だけではつかみきれない商品提案やマニュアルへの反映、また他社との連携など、全く新しい活動に生かされているとのことだ。来るネット家電時代(様々な家電商品がネットワークにつながり、その端末として機能する)にはこのようなノウハウが生かされていくのであろう。
■モバイル分野にも拡がるDVDワールド
ノートパソコン「レッツノートシリーズ」の最新機種「CF-W2シリーズ」が売れている。B5ファイルサイズの小型ノートパソコンに、DVDマルチで記録したメディアはすべて再生可能なドライブを搭載し、世界最軽量1290gを実現した。この製品は、これまでのレッツノートの約3~4倍の販売台数を記録している。
「9.5mm厚の超軽量ドライブを搭載するW2は、松下グループの技術力を結集して作りました。標準バッテリーで約7時間半、実際にDVD映画を見ていても1本は確実にご覧いただけるバッテリーを搭載しています。モバイルパソコンにもDVDドライブが搭載されることによって、DVDを利用するシーンはどんどん拡がっていくでしょう」(原マネージャー)
松下では、今年から来年にかけてさらにモバイル分野に力を入れていこうと考えているそうだ。端末側の技術革新に加え無線LANなどのインフラの整備も進んでいる。いつでもどこでも簡単に、データの受発信ができ、そしてちょっと時間が空いたときなどにDVDメディアやSDカードなどのブリッジメディアを使って時間の有効活用もできる。モバイル分野におけるDVDの活用シーンも拡大するのだろう。松下からどのような商品が登場するのか今後期待したい。
■DVD-RAMのデファクト化を目指して DVDワールドの拡大をめざして松下では、海外を含めたDVDレコーダーおよびマルチドライブの大規模な供給を行う予定だ。「グループ全体で月100万台の販売台数を目指しています」と、原マネージャー。
「ハードウェアのスペック・使い勝手の良さ・用途提案・カスタマサポートなど、さまざまな局面でお客さまからの信頼・支持を得ることがメーカーとして最も大事なファクターです。本当にお客様に喜んでお使いいただける商品をタイムリーにご提供できること、また、お買い求め易い普及価格で提供していきたい。もちろんそれは、ドライブや機器の価格だけでなく、ご使用いただくメディア1枚1枚の価格もです」(PCD G 企画チーム 信濃チームリーダー)
ハードウェアが売れれば、それにあったメディアも量産されるようになり、必然的にメディアの価格が安くなる。ユーザーにとっては大変喜ばしいことであり、市場拡大に弾みがつくことだろう。
また、書き込み型DVDにはたくさんのフォーマットがあるが、「お客様には、他の書き込み型DVDフォーマットに比べてDVD-RAMのアドバンテージである“使い勝手の良さ”“レコーダーとパソコンの連携のしやすさ”などをご理解いただき、お使いいただければと思っています。プロモーションの部隊と連携しながら、店頭やホームページなどを利用してお客様に訴求していっています。こうした地道な積み重ねが結果としてDVD-RAMフォーマットの市場拡大、デファクト化につながっていくのではないでしょうか?」(信濃チームリーダー)
いろいろな要素が絡み合うマーケットの中で、今後もDVD市場を拡げるための努力は続くだろう。
■来るべきネット家電時代に備えて 松下では、やがてネット家電の時代が訪れるだろうと予想している。すでにDIGAを携帯電話で遠隔操作予約出来るBBR(ブロードバンドレシーバ)やパソコンで遠隔操作できるネットワークカメラが商品化されている。
様々な機器がブロードバンドにつながり、離れた場所から操作をしたり、自由にコンテンツを受発信できる時代がそこまで来ていると。
「近いうちに、エアコン・冷蔵庫、お風呂などにもアドレスが振られ、ネットワークにつながっていくでしょう。そうなると、それらは全て周辺機器として認識されます。このような世界で、マルチドライブはホームサーバーとして家電商品の“ハブ的”な位置づけとなりコアサーバーになっていくのでしょう。
ブロードバンドを経由したサービスを提供するということは、システム提案 設置・工事・接続検証・トラブルシューティングなどのあらゆる面でシステム的な顧客対応が不可欠になります。そのときにパソコンや周辺機器で培ったノウハウが生かされてくるでしょう」(原マネージャー)
家電とパソコン・周辺機器の両方を展開し、ユーザーの声を大事にしてきた松下は、これまでのノウハウと相乗効果によって付加価値の高い新しいサービスが提供できるメーカーになるだろう。
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