その他
「LGWAN-ASP」、立ち上がりの兆し 一気に普及の可能性も
2003/08/04 15:00
週刊BCN 2003年08月04日vol.1001掲載
総合行政ネットワーク(LGWAN)を使ったASP(業務システムの期間貸し)サービス「LGWAN-ASP」が立ち上がろうとしている。総務省によれば、今年4月以降、700団体以上が新しくLGWANに加わるなど接続数が急増。LGWAN-ASPを提供する基盤が整いつつある。これに応じて、メーカーや自治体市場に強いシステムインテグレータは、LGWAN-ASPの開始に向けた準備を急ピッチで進めている。(安藤章司●取材/文)
自治体ビジネスに新たな需要
■情報システムの維持費削減に効果、データセンターの確保が課題
LGWANとは、各県単位で構築される行政専用のネットワークである。各県のLGWANは、全国を結ぶネットワークと接続することで、全国の自治体を結ぶ広域ネットワークとしても機能する。現在、全国3207団体ある地方自治体のうち、LGWANに接続済みの団体は1117団体で、全体の34.8%(7月14日現在)に達した。総務省は「今年度中には、全自治体が参加する」方針を示す。
LGWANは、単に行政情報を交換するためだけではない。このネットワーク基盤を活用して、自治体で使う業務アプリケーションソフトを提供する計画もある。自治体がそれぞれサーバーや業務ソフトを購入する必要がなくなり、情報システムの維持費を大幅に軽減することができる。実際に民間事業者のデータセンターとLGWANが接続してLGWAN-ASPを始めた事例はまだないものの、早ければ年度内には実現する見通し。
自治体ビジネスに強いTKCの角一幸・専務取締役地方公共団体事業部長は、「自治体向けの情報サービスのASP化は、今後着実に進む」と捉えており、既存の自治体向け情報サービスのASP化を進めていく考えだ。
今年10月、TKCは約34億円を投資し、最新鋭のデータセンターを開設する。「市町村向けのビジネスを続けるには、ASPサービスに対応した最新鋭のデータセンターを持つ必要があり、自治体ビジネスを主軸の1つに位置づける当社としては、何十億円投資してもやらなければならない」(角専務)と話す。
角専務が指摘するように、LGWAN-ASPを提供するには、データセンターが不可欠な存在である。市町村がLGWANを経由して、外部の情報サービスやインターネットへの接続を行うときは、原則として、LGWANを取りまとめる県のデータセンターを経由するのが一般的なパターンになる。
このため、LGWAN-ASPを提供しようとする事業者は、自らのデータセンターを県に使ってもらうか、あるいは県が指定した他社のデータセンターに、自社のデータセンターを接続するか、あるいは間借りしてサーバーを設置することになる。
現在各県は、コスト削減や効率化が期待できるLGWAN-ASPの立ち上げに向けて、県内のデータセンターの選定を進めている。富士通は、兵庫県明石市に最新のデータセンターを持っており、すでに兵庫県とLGWAN-ASPに向けた実証実験を進めている。
富士通の小村元・コンサルティング事業本部プロジェクト統括部長(公共担当)は、「当社のデータセンターがない県については、データセンターを持つ地元のパートナーと組んでLGWAN-ASPを提供する」と、積極的な姿勢を見せる。NECも、基本的には富士通と同じで、「県がLGWAN-ASPをやるというなら、システム構築分野で協力する」方針を固めている。
では、具体的に、LGWAN-ASP方式で、どのような業務アプリケーションを提供できるのか。一般的には、(1)新規に導入する電子申請や電子受付などウェブをベースとした新しい情報システム、(2)市町村合併により、新しく作り直す業務システム、(3)LGWANを使った遠隔監視やウイルス駆除――などが想定されている。
■導入は各市町村次第、情報系システムから普及
LGWAN-ASPを推進する総務省自治行政局地域情報政策室の高島史郎・地域情報化係長は、「業務システムなど地域色が出やすい分野は、各県単位でASPの内容が違ってくる。だが、たとえば、鉄道路線など経路検索ソフトやグループウェア、ウイルス駆除など、すでにASPサービスとして汎用性が認められる分野については、全国約3200自治体に向けて一律的なサービスをLGWAN上で展開できるのではないか」と話す。
こうしたASPサービスを導入するかどうかは、市町村それぞれが決めることであり、「どれだけのシェアを取れるかは、ベンダーの営業努力次第」(高島係長)ということになる。
LGWAN-ASPに適した情報サービスは、電子申請やグループウェアなど、比較的軽い情報系システムが中心であるように見える。だが、自治体市場に詳しい日本電子計算(JIP)によれば、「情報系システムのみならず、基幹系システムにも適用できる」という。
JIPの室直之・取締役公共システム事業部長は、「LGWAN-ASPは、住民基本情報や税務システムなどを支えるホストコンピュータの在り方にも、今後影響を与える。県主導のデータセンターだけでなく、市町村が独自にデータセンターを運営することも考えられ、実際には、多種多様なLGWAN-ASPが登場する」とみている。
すでに、自治体で使う主要な業務システムのうち、使用頻度が少ない分野からASP化が始まっている。たとえば、年に1回しか使わない国に対する税務報告「課税状況等の調べ」に関する情報システムは、昨年6月、TKCが全国に先駆けてASP化に踏み切った。
TKCの角専務は、「年に1回しか使わないのに、いちいち専用の業務ソフトを購入するのは割が合わない。自治体には人気で、昨年6月から始めてすでに累計200団体が利用申込みを済ませた」と話す。
TKCの「課税状況等の調べ」は、通常のインターネットを使ったASPだが、LGWAN-ASPが本格的に立ち上がれば、全国約3200団体に対してLGWAN経由で同様のサービスを提供できる。JIPにおいても、「市場性がある」と判断し、同分野におけるASPサービスを来年4月から本格的に開始する。
今現在は、LGWANへの接続率も34.8%と低いうえに、県や市町村によって回線の太さもまちまち。「全国一律のASPサービスの品質を保証できる状況ではない」(富士通)という。だが、LGWAN-ASPの効率性、低コストが実証されれば、市町村合併に伴う情報システムの再構築のタイミングとも相まって、一気に普及する可能性も出てくる。
総合行政ネットワーク(LGWAN)を使ったASP(業務システムの期間貸し)サービス「LGWAN-ASP」が立ち上がろうとしている。総務省によれば、今年4月以降、700団体以上が新しくLGWANに加わるなど接続数が急増。LGWAN-ASPを提供する基盤が整いつつある。これに応じて、メーカーや自治体市場に強いシステムインテグレータは、LGWAN-ASPの開始に向けた準備を急ピッチで進めている。(安藤章司●取材/文)
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