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大手IT機器メーカーの第1四半期業績 回復基調のなか、明暗くっきり
2003/08/11 15:00
週刊BCN 2003年08月11日vol.1002掲載
大手IT機器メーカーの今年度(2004年3月期)第1四半期連結業績が出揃った。景気が回復基調にあるなかで、個々の企業の決算は回復の波に乗りつつある。半面、東芝のように北米市場を中心とするパソコン価格ダウンの影響を受けた企業もあった。体質改善が効果を発揮し、不採算事業の収支を黒字化した企業がある一方で、富士通のように改革の途上で、出口の見えない業績悪化に苦しむ企業もある。景気の先行指標とも言える半導体事業については、各社の大規模なリストラが効果を出すとともに、市況回復で業績が改善、各社の第1四半期業績を下支えする結果になった。(川井直樹●取材/文)
半導体・デバイス部門が下支え
■日立の情通部門は営業損失267億円、東芝、パソコン価格ダウンが痛手に
今年度第1四半期は、イラク戦争にともなう米国景気の悪化に加え、電機・電子製品の世界的な供給基地である中国、台湾でのSARSの感染拡大が、各社の決算に若干ながらも影響を与えた。
一方、世界的なデフレの進行による販売価格ダウンの影響や、民間設備投資の先送りによる発注延期など、景気の回復は「期初に考えていたよりも弱含みで推移した」(大手メーカー首脳)という。その結果、構造改革をひとまず達成していた企業と、途上にあった企業の間で、業績に明確な差が出た。
大手メーカーの中で、当期赤字を計上したのは日立製作所、東芝、富士通の3社。日立は営業段階で、前年同期の136億円の黒字から、337億円の赤字に転落。米IBMから買収したHDD事業が利益を押し下げることになり、情報通信システム部門だけで267億円の営業赤字を出している。
第1四半期で大きな営業損失を出す原因となったHDD事業について、「IBMからHDD事業を買収したのは、日立の事業を強化するため」(八丁地隆・執行役員常務)と説明。「HDD事業を軌道に乗せる」(同)ことで、業績回復は可能だとしている。
一方、東芝の営業損失は413億円で、前年同期に比べ赤字幅が150億円拡大した。社会インフラ部門が電力・社会システムの悪化に加え、金融、官公庁向けシステムが減少したことで赤字幅が38億円拡大し、322億円の営業損失を強いられた。
さらに、海外におけるパソコン販売台数の拡大などで好調だったデジタルプロダクツ部門が、5月に米ヒューレット・パッカード(HP)がパソコンの価格を引き下げたことで打撃を受けた。「パソコンの出荷台数は内外とも増加していた。HPの安値攻勢で180億円のマイナス要因になる」(笠貞純・執行役上席常務)と、青天の霹靂とも言えるHPの価格ダウンに打つ手が遅れた。
東芝の場合、パソコンの平均単価が5月で15%下落した。業績回復にはまず、海外パソコンの採算を回復することが絶対条件。「緊急を要する問題」(同)という認識から、7月に入り岡村正社長をヘッドとする「緊急対策プロジェクトを発足させ、商品計画から資材、生産ラインまで総合的な対策を立てる」(同)方針だ。だが、第2四半期に間に合うかどうかは微妙。
これら2社に対して、主力のソフトウェア・サービスとプラットフォーム事業が足を引っ張っているのが富士通。ソフトウェア・サービス部門は、もともとシェアの高い公共部門でe-Japan関連の需要獲得や医療、製造分野での受注獲得により、売上高で前年同期比0.6%増の3833億円を確保し、営業損失をどうにか9億円圧縮。しかし、同部門の営業赤字額は36億円と小さくない。
さらに、プラットフォーム部門が、米国向け光伝送システムの価格ダウンや携帯電話新機種の出荷ずれ込みなどで、営業損失が64億円拡大し194億円となった。小倉正道取締役専務は、「プラットフォーム事業は市場規模の大きい分野。ただ、単価ダウンで引き続き厳しい状況にある。当社のIT基盤コンセプトであるトリオーレで収益を回復基調に乗せたい」と語る。
■NEC、パーソナル機器の収支改善、ソニー、松下も回復軌道に
NEC、ソニー、松下電器産業、三菱電機の4社は、回復の軌道が見えてきた。NECの第1四半期は、売上高1兆307億円に対して営業利益は120億円となり、前年同期の営業赤字から復活した。ITソリューション事業はコンピュータの単価ダウン、国内個人向けパソコンの出荷減などの影響で前年同期比10%の減収になったものの、パソコン事業の構造改革が成功し、固定費削減、集中購買と部品共通化による原価低減を達成。営業利益で同21億円増の55億円を稼ぎ出した。
ソニーの場合、前年同期比較では減収減益だが、昨年度(03年3月期)第4四半期の営業赤字、当期赤字から脱却した。減収となった製品の中には、ブラウン管テレビなどと並んでパソコン「バイオ」も含まれる。
松下電器は全体で減収だったものの、営業利益は前年同期に比べ43億円拡大し200億円に。AVCネットワーク、アプライアンス、デバイスなど各分野のグループ企業別でみて、いずれもわずかながら営業増益を達成している。
各社の第1四半期実績で特徴的なのは、市況悪化で不採算事業として整理・統合が進められてきた半導体・デバイス部門が大きく回復してきたことだ。部門別で61億円の営業損失となっている富士通でも、前年同期に比べると12億円の改善を達成。
東芝も半導体が136億円の増益になったほか、デバイス全体でも黒字額は前年同期比で131億円拡大し、営業利益70億円と急回復した。NECも、半導体・電子部品事業で採算性を回復。営業損益を前年同期に比べ137億円改善し、105億円の黒字転換を果たした。
ただし、日立(55%出資)と三菱(45%出資)による半導体合弁、ルネサステクノロジについては持分法損失を計上。NECと日立のメモリ合弁会社、エルピーダメモリでもそれぞれ持分による損失を出している。
第1四半期以降、さまざまな産業分野で景気指標が上向く兆しが出ている。今回、IT機器大手の第1四半期の業績を見ると、回復基調に乗ってきた企業と、乗り切れない企業の差が広がりつつあるようにも見える。
特にパソコンでは、「(価格競争への)対応が遅れた」とする東芝と、「事業構造改革で採算を確保した」(松本滋夫・NEC取締役専務)とするNECで明暗を分けた格好になる。
冷夏の影響や、10月から始まる個人向けパソコンリサイクルが需給バランスに与える影響など、第2四半期以降も不透明な要素が多いのも事実。すでに、9月中間期段階で業績の上方修正を匂わす企業も出てきたが、景気回復がホンモノか、という点も不確実な要素ではある。引き続き、構造改革の可否が業績を決定することは確実だろう。
大手IT機器メーカーの今年度(2004年3月期)第1四半期連結業績が出揃った。景気が回復基調にあるなかで、個々の企業の決算は回復の波に乗りつつある。半面、東芝のように北米市場を中心とするパソコン価格ダウンの影響を受けた企業もあった。体質改善が効果を発揮し、不採算事業の収支を黒字化した企業がある一方で、富士通のように改革の途上で、出口の見えない業績悪化に苦しむ企業もある。景気の先行指標とも言える半導体事業については、各社の大規模なリストラが効果を出すとともに、市況回復で業績が改善、各社の第1四半期業績を下支えする結果になった。(川井直樹●取材/文)
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