その他
経産省、教育用IT機器の利用で新事業 ソフト・ハードの標準仕様を研究へ
2003/09/29 15:00
週刊BCN 2003年09月29日vol.1008掲載
経済産業省は、2004年度予算の概算要求で、学校向けIT機器の利活用を拡充する新規事業費を計上した。学校で使われるハードウェアやソフトウェアの「標準モデル」を策定し、導入規格を統一する研究を開始するほか、教員の事務処理を軽減するためパソコンなどIT機器を頻繁に使う場面を増やし、教員のITリテラシーを向上させる手立てを講じる。IT機器を利用した5、6年後の「新しい学校像」の下地を作り、学校が必要としているIT機器類の仕様を提示して、教育産業が参入しやすい環境を作るのが狙いだ。一般市場に対し学校向け教育市場は、採算確保が困難。こうした状況を打開する得策となるか注目される。(谷畑良胤●取材/文)
教員スキルの向上も狙う
■校内ネットで問題点を検証、教員のIT環境向上へ
2000年に策定された国のミレニアム・プロジェクト「教育の情報化」計画や、その後の「e-Japan重点計画」によると、05年度までに公立学校すべての子供5.6人に1台のパソコンが整備されるほか、各普通教室に子供用1台と教員用1台のパソコンが配備され、高速インターネットに常時接続する環境が整う計画だ。
だが、こうした国の整備計画は、「教育用」に偏った施策で、「教員用」パソコンの整備は二の次になっている。一部の教員は自費で購入したパソコンを学校に持ち込むなど、セキュリティ上の問題も指摘されている。当然、職員室内のネットワーク環境はまちまちで、グループウェアやファイル共有サーバーなどの利用はごく一部の先進的な学校に限られている。
経産省が打ち出した今回の新規施策は、こうした状況を改善するために、05年度までに構築される教育現場のITインフラを想定し、この環境を利活用して教員が継続的にIT機器を利用できる“下地”を構築するのが目的だ。「教員のITスキル」の向上を目的に、ソフトやハードの導入規格となる「標準モデル」を策定して、教育ソフト会社などが効率良くIT機器を学校に供給できる環境を整備する。
同事業を所管する経産省商務情報政策局の風間博之・情報処理振興課係長は、「05年度までの整備計画は、IT機器を活用した授業の実現に重点が置かれている。今後はIT機器を利活用することで教員のITスキルの向上を図り、学校の事務を効率化する環境を考えていく」と、5、6年後を見越した下準備的な事業であると説明する。
計画では、経産省と文部科学省所管の財団法人「コンピュータ教育開発センター(CEC)」に在籍する教育ソフトウェア企業の代表者や有識者らによる研究会を設置し、「IT機器要件調査」やソフト、ハード、周辺機器の導入規格となる「標準モデル」などを04年度から策定する。
05年度以降は、いくつかのモデル校で、初期の「標準モデル」に基づいた教育用IT機器を整備し、教員が実際に校務分掌や授業利用、事務処理などを行い、「使い勝手」を検証。再度、「標準モデル」の見直しを行う。
同研究会の検討事項としては、各学校で異なるハード、ソフトの仕様統一に重点が置かれる予定。例えば、子供の成績処理や通知表、健康カードの作成などに使うソフトの管理データを統一して、各データフォーマットを構築する。教材や校務処理、時間割などのソフトプログラムは、LinuxやウィンドウズなどのOSに依存しないソフト構築ガイドを作る。
ソフト以外にも、利用度が高くなった電子白板、PDA(携帯情報端末)、プロジェクタなどの学校向けの標準仕様や、授業で使うパソコンの推奨スペック、校内情報セキュリティのチェックガイドなども策定する。「標準モデル」が完成すれば、学校内や学校間、学校と地域での情報共有が実現するほか、授業用や校務処理用のソフト連携ができる。教員が他の学校に異動しても、操作性が統一されていれば、同じスキルでIT機器が使用できる。
05年度は、同研究会で策定された「標準モデル」を基に、「モデル学校」数校に安価な中古パソコンなどのIT機器を導入して、職員室を含む校内ネットワークを構築。そこで利活用の問題点を検証する。同省では、「モデル学校での事例を積み上げて、教員1人1台にパソコンを配備する予算を文科省のIT機器調達用件に入れるよう迫りたい」(風間係長)と、現在は対象になっていない教員パソコンを国庫補助項目に加えることを目論んでいる。
こうした「標準モデル」の策定は、すでに米国で検討が進みつつある。国内では、高知県教育委員会がIT機器で校務処理を効率化する「汎用校務支援システム」を地元ソフト会社と共同で開発した。同システムは、元々複数の学校で開発・利用していた校務処理ソフトを、教員が他の学校へ異動しても戸惑うことなく利用できるよう標準化したものだ。
■各社、教育ソフトを充実へ 「新しい学校像」の実現目指す
今回の新規施策について、学校向けIT機器で高いシェアを持つNECは、「教員が学校でパソコンを使う光景が当り前になるには時間がかかるが、この事業がその第一ステップになると思う」(小林正幸・文教ソリューション事業部事業推進部長)と期待を寄せる。同社は、今年7月から、学校事務や成績管理、学習評価などをオンラインで提供するパッケージソフト「学びの扉」を発売した。ただ、「このソフトを導入した先進校でも教員1人1台のパソコンは整っていない。本当の意味で教員がパソコンを必要とするように、書類ベースの事務処理を電子帳票化するなどの改革が必要だ」(井上義裕・文教ソリューション事業推進部事業部主任)と、政府主導の制度改正が教育用IT機器の需要拡大につながるとしている。
中堅教育ソフト会社、データポップの深山照社長も、「教育ソフトはOSがバージョンアップするたびに改訂版を出さなければならなかった。経産省が進めようとしているソフトデータのフォーマット化は、これを改善する点で期待できる」という。
文科省が8月に発表した「学校における情報教育の実態等に関する調査結果」によると、パソコンを使い教科指導などができる教員の割合は、わずか52.8%にすぎない。これは、教員がIT機器を業務に十分活用できていない実態を物語っている。一方で、教育ソフト会社は、教員リテラシーの低さのあおりを受け、高機能な教育ソフトを出し続けても、教員に使ってもらえないという現実に直面している。
経産省はこうした悪循環を改善するため、「教育用のソフト会社やハード会社の負担を少なくするため、研究会でデータ連携に必要な研究開発を行う」(風間係長)としている。もし、予算要求が通れば、06年度以降には教育用のIT機器を利用した「新しい学校像」が実現するかもしれない。
経済産業省は、2004年度予算の概算要求で、学校向けIT機器の利活用を拡充する新規事業費を計上した。学校で使われるハードウェアやソフトウェアの「標準モデル」を策定し、導入規格を統一する研究を開始するほか、教員の事務処理を軽減するためパソコンなどIT機器を頻繁に使う場面を増やし、教員のITリテラシーを向上させる手立てを講じる。IT機器を利用した5、6年後の「新しい学校像」の下地を作り、学校が必要としているIT機器類の仕様を提示して、教育産業が参入しやすい環境を作るのが狙いだ。一般市場に対し学校向け教育市場は、採算確保が困難。こうした状況を打開する得策となるか注目される。(谷畑良胤●取材/文)
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