その他
水道復旧にGISが威力を発揮 わずか3日で使用可能に
2003/10/20 21:12
週刊BCN 2003年10月20日vol.1011掲載
災害時に電気、ガス、水道、通信、道路などのインフラをいち早く復旧できるかどうかが、住民の不安を取り除き、災害復興を順調に進められるかのカギになる。9月26日早朝に発生し震度6弱を記録した北海道の「十勝沖地震」では、道路をはじめインフラがズタズタに寸断された。その中で住民生活の基盤となる水道をいち早く復旧させたのが池田町だ。地震発生から全町で使用不能になっていた水道を、わずか3日で町内全ての地域で使用可能にした。復旧を早めた最大の要因はGIS(地理情報システム)を完備していたことだ。GISを活用して効率的な復旧作業を行い、周辺町村よりはるかに早く、水道の供給を再開した。(川井直樹●取材/文)
北海道・池田町の取り組みを検証する
■12か所で水道管が断裂、中札内村からの送水も停止
十勝沖地震が発生したのは9月26日午前4時56分。震度6弱の激しい揺れにより、道路ばかりでなく水道管も瞬間的に12か所で断裂した。
池田町の上水道は、隣村の中札内村から引いている。かつては町内を流れる河川から取水していたが、上流の町村の生活排水流入により汚染が進んだことで、水のきれいな中札内村からの送水に切り替えた。
メーンの水道管で送水された上水は、いったん池田町内2か所の高台にある配水池に貯められ、町内各所に送られるようになっている。貯水施設の容量は1500トン規模が2か所で、池田町約3600戸の上水使用量の2日分を蓄えられる。しかし、町内の水道管の断裂により一気にタンク内の水が失われたという。また、中札内村からの送水も止まり、残された水は予備のタンクに貯水された分のみとなった。
「地震が発生し、すぐに職員の招集がかかった。水道の破損状況を調べているうちに、予備のタンクもカラになり、午前7時30分には完全に水道が使えなくなった」。こう語るのは、池田町役場の長谷川愛二郎・上下水道課施設係主任。地震発生から1日過ぎた27日には中札内村からの送水管が復旧。本格的な復旧活動が始まる。
「まず、漏水個所のチェック。町内の水道管のバルブを1つずつ開け、本部の流量計を見て異常な水量が流れていないかどうかを調べた」(長谷川主任)と、根気のいる作業となった。
地上に現れた破裂個所ならば、そこを復旧すれば済むが、地中で断裂しいる場合は見つけにくい。さらに、それが川底のようなところならば、水があふれているかどうかを目視するのは不可能だ。ここでGISが威力を発揮した。
「GISを装備し、過去からの水道工事の時も変更内容を1つ1つGIS上で更新していった」(同)ことが幸いした。水道管は道路に沿って埋設されている場合が多く、500メートルごとにバルブが設置されていた。また、各戸ごとの水道管の位置も、GIS上で明確にされていた。このためバルブを発見し、それを開けたり閉めたりする作業を機械的に行えばよく、「作業員2人を1チームにして現場に行かせ、こちらはパソコン上でGISを見ながら携帯電話で指示を出せばよかった」(同)という。
こうした作業を続け、震災後3日目の午前9時30分には町内全域で水道が使えるようになった。まだ記憶も生々しい地震発生時を振り返って長谷川主任は、「GISがなかったらこんなに早く復旧はできなかっただろう」と語る。それを示すように、周辺町村の復旧は池田町に遅れた。
■こまめな情報更新が奏功、災害時の有効性を実証
もともと池田町がGISを導入したのは1998年。地元の測量会社がシステムを受注し、ウチダデータがソフトウェアやノウハウを提供した。地図情報を活用するのは、上下水道課が池田町の嚆矢となった。「導入以来、工事ごとに変更を加えていき、情報を更新していった」というこまめなメンテナンスが震災復興で功を奏した。
「バルブがどこにあるか、という情報はGISを見ればわかる。そこを掘れば必ず水道のバルブが見つかる。そこに使用されている水道管の管径や管の種類など様々な情報を見ることができるGISがなければ、バルブを探す時間が膨大にかかったことだろう」という。普段の水道管更新などの工事の際にも、工事業者とのやり取りはメールにGISの情報を添付したりするだけで済んでいる。
上下水道課は池田町の本庁舎ではなく、1キロメートルほど離れた下水処理場に事務所がある。そこにGISのサーバーが置いてあり、今回の地震でも被害がなかったのが幸いした。唯一、問題があったのは、「停電で地震発生からコンピュータが使えなかったこと。電源の確保が課題になったが、後から考えれば自家発電装置があり、それを使えばよかった」と苦笑い。もし万一、再び大きな地震がきても大丈夫と胸を張る。
長谷川主任は、「上下水道課でGISを活用していることは他の課も知っている。いつでも情報は教えると言ってきたが、これまで要請がなかった」というのが実態だ。長谷川主任は、「阪神大震災後にGISの必要性が訴えられた。今回、十勝沖地震でわれわれがその有効性を実証した。今後、全国の自治体でGISが見直されるだろう」と、自治体の電子化が進む中で統合型GISの活用も、十勝沖地震を教訓に進められることになると予想している。
災害時に電気、ガス、水道、通信、道路などのインフラをいち早く復旧できるかどうかが、住民の不安を取り除き、災害復興を順調に進められるかのカギになる。9月26日早朝に発生し震度6弱を記録した北海道の「十勝沖地震」では、道路をはじめインフラがズタズタに寸断された。その中で住民生活の基盤となる水道をいち早く復旧させたのが池田町だ。地震発生から全町で使用不能になっていた水道を、わずか3日で町内全ての地域で使用可能にした。復旧を早めた最大の要因はGIS(地理情報システム)を完備していたことだ。GISを活用して効率的な復旧作業を行い、周辺町村よりはるかに早く、水道の供給を再開した。(川井直樹●取材/文)
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