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岐阜県岩村町、町全域を無線LANでカバー 全国初の広域ユビキタスを構築
2003/12/01 21:12
週刊BCN 2003年12月01日vol.1017掲載
岐阜県岩村町が今年10月から、町全域を無線LANでカバーするユビキタスネットワークサービスを提供し始めた。同時にFWA(加入者系無線)方式による高速インターネット接続サービスも提供している点が特徴だ。ブロードバンド不毛の“山里”が先端の通信環境を一気に手に入れた。こうしたサービスが可能なのは、町側が公共ネットワークを住民に開放しようと「構造改革特区」の認定を受け、第1種通信事業者として通信事業を手掛けているからだ。総務省が推奨するCATV(ケーブルテレビ)方式に比べて、5分の1のコストで効率的な公衆接続サービスの環境を作り上げた。小規模な町でも工夫次第で住民本位の先端通信環境の整備が可能なことを示す。(坂口正憲●取材/文)
住民本位の先端通信環境整備
■エリアは東京ドーム約90個分、当面は無償でサービスを提供
岐阜県岩村町は、岐阜県の南西部に位置する人口5400人の小さな町。周りを山林に囲まれた典型的な山里である。「重要伝統的建造物群選定の町並み」に認定されたり、「日本のむら景観コンテスト」(農林水産省主催)で最高賞を受賞した景観は人の心を和ませる。
この岩村町が先進的な取り組みで注目を集めている。10月から町全域を無線LANでカバーする住民向けの公衆接続サービスを開始したからだ。
そのサービスの特徴は、ユビキタスネットワークとブロードバンド接続の両面を追求している点だ。1つの無線基地局が、2.4GHz帯の周波数を利用したIEEE802.11b方式(最高通信速度11Mbps)、5.0GHz帯のFWA方式(同54Mbps)の無線LAN規格に対応する。
802.11b方式はユビキタスネットワークサービスに利用されており、サービスエリア内であればどこでもインターネット接続が可能だ。FWA方式はブロードバンド接続向け。住宅に無線LAN子機を設置し、そこからLANケーブルでパソコンと接続し、固定で高速なインターネット接続を提供する。つまり、サービスエリア内であれば、屋内外でインターネットが利用できる。
公立学校や公民館など、公共施設に設置した無線基地局から半径400mのエリアでサービス可能となり、2004年10月までに26か所へ基地局を設置していく。ネットワーク整備が完了する04年10月には、東京ドーム約90個分もの広域なエリアでサービスが可能になる計画だ。
岩村町の三園了三・企画情報課長は、「1つの地域でこれだけ広域のユビキタス環境は、国内でも初めてのケースとなるだろう」と自信を見せる。
公共施設同士は、町役場を起点にスター状に高速の光ファイバーで結ばれ、イントラネット化されている。さらに、町役場は岐阜県の高速通信網「岐阜情報スーパーハイウェイ」と1Gbpsの高速回線で接続しており、バックボーン回線も充実している。三園課長は、「今のところ屋外のユビキタスで1Mbps、屋内のブロードバンド接続で30Mbpsぐらいの実効速度が出ている」と話す。
しかも、ユビキタスネットワークは無料。ブロードバンド接続は有料だが、当面は無償でサービスを提供していく。それまでADSLすら開通していなかった岩村町の住民は、今では全国で最も恵まれた通信環境を享受できる。将来的には、町内1700世帯のうち1000世帯での利用を見込んでいる。
ここまで読んだ読者の中には、「行政が無駄に税金を使って、環境を整備しただけではないか」と勘ぐる向きもあるだろう。ところが、岩村町の取り組みは実に合理的なものである。
■補助金を蹴り独自施策、用途開発が今後の課題に
三園課長は町が通信環境の整備に乗り出した理由をこう説明する。「NTTに任せていても、いつまで経っても町にADSLや光ファイバーはやってこない。ブロードバンド環境を自前で整備する必要があった」
NTTは一定数以上の加入者を町側が保証するならばADSLを開通する構えを見せていたが、そのハードルが高く、町として保証できない。とは言え、このままの状態では都市部との情報格差がますます開いてしまう。
そこで注目したのが、地域イントラネットの活用だった。03年4月、岐阜情報スーパーハイウェイと町役場が接続するのに合わせ、町内の公共施設を高速通信回線で結んだ地域イントラネットを構築する予定だった。これは総務省が推進しているもので、事業費の3分の1は補助してくれる。この地域イントラネットと無線LANを組み合わせ、それを住民に開放すれば、ユビキタスネットワークやブロードバンド接続の環境を整備できると考えた。
だが、そこに大きな障害があった。総務省が規定する地域イントラネットでは、公衆接続サービスが認められていないのだ。用途は行政情報の共有や住民向け情報提供サービスに限定されている。規制上、自治体が公衆接続サービスを手掛けるにはコストの高いCATV方式しかなかった。「これでは地域イントラネットを住民サービスに活用できず、投資効果が低い」(三園課長)。
それでも岩村町はあきらめず、岐阜県とも相談し、公衆接続サービスの可能性を探った。そこから考え出したサービス形態は次のようなものだった。
岩村町が自前で通信環境を整備し、第1種通信事業として公衆接続サービスを手掛ける。ただ法律上、自治体は第1種通信事業を営めないので、特定地域での規制緩和を認める「構造改革特区」制度を利用し、規制を緩和してもらう。実際は、人員の限られた町が通信サービス事業を手掛けるのは負担が重いので、岐阜県の第3セクター「VRテクノセンター」にネットワークの整備・運営を外部委託する。
岩村町の申請は03年4月、見事に構造改革特区制度で認定され、公衆接続サービスへの道を開いた。
総務省の補助金支給の要件を満たさなかったので、岩村町は地域イントラネットと無線LAN設備を独自予算で整備することになった(わずかに県が補助)。総額は4億円である。これが安いか高いか。三園課長は、「総務省が推奨するCATV方式で公衆接続サービスを実現していたら、20億円ぐらいの費用がかかっていた」と話す。
結果的に言えば、岩村町は規制の壁を乗り越え、先端の通信環境を整える手段を手にした。民間通信会社が進出しないような小さな町でも、知恵を絞れば先端の通信環境は整備できるのだ。
今後はこの充実した通信環境をどのように活用していくかが課題だ。すでに町は、行政情報を集約した「ポータルサイト岩村」を立ち上げ、そこで住民・企業のホームページも掲載する。
三園課長は、「ユビキタス環境を利用した遠隔医療や農業施設の遠隔操作など、住民が活用できるユビキタスサービスを開発していきたい。この環境を民間企業の実証実験にも開放していきたい」と今後の抱負を熱く語る。
岐阜県岩村町が今年10月から、町全域を無線LANでカバーするユビキタスネットワークサービスを提供し始めた。同時にFWA(加入者系無線)方式による高速インターネット接続サービスも提供している点が特徴だ。ブロードバンド不毛の“山里”が先端の通信環境を一気に手に入れた。こうしたサービスが可能なのは、町側が公共ネットワークを住民に開放しようと「構造改革特区」の認定を受け、第1種通信事業者として通信事業を手掛けているからだ。総務省が推奨するCATV(ケーブルテレビ)方式に比べて、5分の1のコストで効率的な公衆接続サービスの環境を作り上げた。小規模な町でも工夫次第で住民本位の先端通信環境の整備が可能なことを示す。(坂口正憲●取材/文)
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