その他
変貌するソフト開発業界 産業の基盤強化が急務
2004/01/26 15:00
週刊BCN 2004年01月26日vol.1024掲載
ソフトウェア開発のあり方が問われている。企業の生き残りをかけた情報化投資やデジタル家電の普及に見られるように、ソフトの開発需要は回復の兆しが見えつつある。しかし、従来の人手を要する開発手法が通用せず、「人海戦術的な受託開発がビジネスになる時代は完全に終わった」(ソフト開発関係者)とも言われる。今の時代に求められているビジネスモデルとは何なのかを探った。(安藤章司●取材/文)
情報化社会を支える需要に応えるには
■ソフト工学の水準アップは国の課題、開発の多重下請け構造に限界
情報処理推進機構(IPA)は、今年10月をめどに「ソフトウェア・エンジニアリング・センター」を立ち上げる。開発プロセスの改善・評価、ソフトの定量的評価基準などを産業界や研究機関と協力して検討する。米カーネギーメロン大学ソフトウェア・エンジニアリング研究所や、独フラウンホーファー研究所など、ソフトウェア工学の先端を行く研究施設からも協力をあおぐ。
産業界の立場で、同センターに一部人材を供給する予定の情報サービス産業協会(JISA)の佐藤雄二朗会長は、「社会全体がソフトや情報システムへの依存度を高めている。われわれ情報サービス業界は、この社会の要求に応えられる技術力と高い生産性、国際的なコスト競争力を身につける必要がある。開発手法などソフトウェア工学の水準をどう高めていくのかは、国家プロジェクトとして取り組むべき重要な課題」だと位置づける。
JISAによれば、国内の情報サービス産業の就労人口は約57万人と言われているが、このうちソフトウェア工学を体系立てて学んだ人材は、約2割しかいない。文科系の学校を卒業した後、単純な開発作業に従事している現状もある。先進諸国の情報サービス産業では、就労人口のうち半数以上が、理工系の学校などでソフトウェア工学を学んだ人材が占める。このため、開発を中心としたものではなく、ソフトの設計に重点を置いた産業構造になっているという。
佐藤会長は、「メインフレーム全盛の時代ならともかく、今は高品質なソフトを、早く、安く提供することが社会全体から求められている。人海戦術でこなしてきた日本のソフト開発ではコストばかりかさみ、すでにビジネスとして成り立たなくなってきた。これにより収益が悪化するソフト開発会社が増え、日本の社会全体の発展を支える情報サービス産業の極めて脆弱な部分が露呈している」と指摘する。
ソフト開発の多重下請け構造も限界に来ている。コストを押し上げ、市場の要求に合わなくなっているからだ。ソフト業界に詳しいアクシスソフトの大塚裕章会長は、「主契約者(プライム)がいて、2次下請け、3次下請けと続くのは、コスト的に厳しくなっている。プライムと2次下請けまでは、まだ発注者から『パートナー』と呼んでもらえるかもしれないが、3次下請け以降は単なる『人手の寄せ集め』に見られる可能性が高い」と厳しく指摘する。
たとえば、3次下請けに出すのと同じ価格で、中国やベトナムなどの海外へ発注すれば、一流大学出身の非常に優秀な人材が集まる。一方、国内では人月単価(技術者1人の月額料金)の価格中心で商談が決まるため、コストを抑えようとすれば良い人材は集まりにくく、競争力は落ちる。このため3次、4次下請けの仕事は、中国などに流れる構図が強まっている。この結果、「国内の人月単価は、低水準に下がったまま」(業界関係者)という。
比較的体力のある大手ソフト開発会社の中からは、「製造業の設備投資のように、ソフト開発業は人材に対する投資なしで収益を得ることはできない。わずかな社内研修とOJTだけでは、技術者のスキルも上がらず、会社としての競争力もつかない」と、受託開発中心の中小ソフト会社に対する冷ややかな声も聞こえてくる。
これに対して、打開策を模索する動きも出始めている。中小システムインテグレータを組織する日本システムインテグレーション・パートナーズ・アソシエーション(JASIPA)は、NECや富士通などの大手システムベンダーから受注を待つのではなく、中小インテグレータの側から、自らの得意分野を積極的に大手システムベンダーや顧客企業に提案する力をつける活動を強化している。JASIPAの和知哲郎理事長は、「中小インテグレータは、地元密着の営業活動など、強みは多い」と話す。
■官公庁への働きかけ強めるANIA、競争力向上に外国企業との連携も
地域の情報サービス企業が連合する全国地域情報産業団体連合会(ANIA)では、電子自治体などの公共案件を、地場産業の一角を担う地元のインテグレータが率先して受注できるよう、関係官庁への働きかけを強めている。辻正会長は、「ANIAを構成する全国25団体のうち、約半分の団体が地方自治体のトップである地元知事と直接交渉できるパイプづくりに成功した」と自信を示す。
ANIAの東京地区における構成団体である日本ソフトウエア産業協会(NSA)の山田晃司会長は、「辻会長の人柄もあるだろうが、一連の活動の結果、会員団体と知事との距離が縮まった。われわれも東京都への働きかけなど、ある程度の政治的な活動は必要」と、辻会長の方針に理解を示す。
国際競争力の向上に力を入れている企業もある。ANIAの参加企業のうち、今年1月末までにコムチュアや中部コンピューターなど7社と、ベトナムの情報サービス企業6社は、ソフト開発などの分野で協業する新会社「VIJAS(ビジャス=ベトナム・ジャパン・ソフトウェア・ゲート)」を合弁で設立する。
海外企業と直結することで、競争力を高めようという戦略だ。大手ソフト開発会社が国内中小のソフト開発会社の頭越しに海外企業と組むというよくあるパターンではなく、国内中小ソフト開発会社が、直接、コスト競争力のある海外企業と組むという意欲的な試みである。
経済産業省が1月13日に発表した特定サービス産業動態統計調査によれば、情報サービス業は、昨年10、11月と前年同月比で業況がやや上向いた。関係者は、「IT投資促進減税などが追い風となり、企業の情報化投資が活発化した。この調子で推移すれば、年度末に向けて、さらに上向くことも十分あり得る」と期待を膨らませる。
単にプログラムを開発していれば収益が得られた時代が終わりを告げた今、情報サービス産業の意識が大きく変わろうとしている。現代生活は今後、ますます情報システムへの依存度を強めていくのは必至で、この需要に応えられるだけの産業基盤強化が求められている。
ソフトウェア開発のあり方が問われている。企業の生き残りをかけた情報化投資やデジタル家電の普及に見られるように、ソフトの開発需要は回復の兆しが見えつつある。しかし、従来の人手を要する開発手法が通用せず、「人海戦術的な受託開発がビジネスになる時代は完全に終わった」(ソフト開発関係者)とも言われる。今の時代に求められているビジネスモデルとは何なのかを探った。(安藤章司●取材/文)
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