NECのパソコン生産拠点となっているNECパーソナルプロダクツ(片山徹社長)の米沢事業場(山形県米沢市)。国内生産拠点再編の嵐を乗り越えて、ノートブック型やデスクトップ型パソコン生産の中核として生き残った。現在では、「トヨタ方式」の生産管理手法を取り入れることで生産革新を果たし、今年度(2004年3月期)は00年度(01年3月期)に比べ年間約60億円の生産コストを削減するなど、大きな効果を上げている。生産効率も01年度は1人あたり日産10台以下だったが、今年度末には50台を突破し60台に到達する見込みという。アジア地域の平均値が15-20台といわれるなかで、3-4倍も高い生産性だ。その米沢事業場で、生産革新の現場を見た。(川井直樹)
年間60億円のコスト削減も
■1ライン6人体制、5人も試行 米沢事業場ではパソコンを組み立てるラインを細分化し、1つ1つを「セル」と呼ぶ。このセルで、海外工場や国内の部品メーカーなどから運び込まれたパーツを取り付け、最終的には梱包まで行う。
00年度の段階ではこのセルは11人で構成されていた。当時の1ラインの長さは17メートル。生産効率を向上させる活動のなかで、1人ひとりの動線の短縮と、1人が1つの作業を集中的に行うのではなく、前後の作業のバックアップを行う「リレー方式」を採用した。これにより作業のボトルネックを解消するとともに、1つのセルの要員削減を可能にした。現在の人数は6人で、一部では5人で作業を行うセルも試行的に取り入れられている。

セルの長さは6.3メートルと3分の1程度にまで短くなった。当然、生産効率のアップだけではなく、スペース効率も高まった。米沢事業場の製造フロアでは、奥まった位置に部品などをストックしておくヤードがある。パソコン生産に必要な多くの部品ストックがあるが、そことセルの間は「水すまし」と呼ばれる要員が頻繁に巡回する。この水すましは、「工程間を決められたサイクルで、必要なものを必要なだけ、必要なときに運び、情報を伝える伝達人」と定義されている。
■生産の“自働化”を推進 パソコンを組み立てるセルには組立要員の前に棚があり、そこに必要な部品が揃えられている。作業を進めていくなかで、その棚の部品はなくなるが、それを巡回中の水すましが常に補給していく。これにより、部品がないためにラインが止まったり、その部品をストックヤードまで取りに行く時間も必要なくなる。水すましの巡回ルートは一方通行になっており、それぞれの水すましの役割も決まっている。水すましが生産情報を持っていることで、現場には「生産管理担当」が存在しない。全て組立工程の従業員が自立的に活動しているわけだ。

生産効率アップと言っても、常に省力化だけを追及しているわけではない。知恵と工夫で自ら手作りの設備を生み出したり、作業員そのものの効率をアップしたりして“自働化”を図った。例えば、これまで梱包に使用する段ボール製の緩衝材は、工場の外で折り曲げ、組み立てて工場に搬送されてきた。それを現在では内製化している。
これら改善の基礎となったのが、「トヨタ自動車方式」と呼ぶ生産革新活動。もともとはNEC長野(長野県飯田市)で、トヨタ自動車OBのコンサルタントを活用し効果を上げていたのを見て、NECパーソナルプロダクツでも導入した。今では、NECグループ全体でもこのトヨタ方式を一般化した。
■改善の工夫が次々と
トヨタ方式導入以前にも、米沢事業場では独自に生産革新活動を行ってきた。「しかし、われわれが気づかないような細かな部分で、次々と工夫しなければならないところが出てきた」(郡山眞也・生産革新推進部長)という。例えば、セルの作業者の前に配置した棚も、微妙に傾斜させて取り出しやすくするなど、それまでは思いもつかない部分も指摘された。
生産革新には、従業員の意識改革も不可欠。米沢市といえば、上杉家のお膝元。米沢藩の第9代藩主である上杉鷹山にあやかって、現場の作業支援制度を「生産互助隊」と名付け生産革新に役立てた。
「米沢事業場は、NECのパーソナルラインのマザーファクトリー。生産のスピードアップと低コスト化も米沢事業場を中心としなければ競争力を失う」(高須英世・取締役常務PC事業本部長)という重責を担う。

この米沢事業場を中心にグローバルSCM(サプライチェーンマネジメント)である「VCMシステム」を構築し、ITによるハイスピードオペレーションも実現した。従来は、実売把握から計画、生産、出荷までの期間は2.5週だった。VCMの導入により、現在では1.5週に短縮しており、さらに04年度は計画に要する2日を含め1.0週を目指している。
生産の海外移転や外部委託など、効率化に対する取り組みは様々だ。NECパーソナルプロダクツでは、米沢事業場を中心として生産革新を続けることで国際競争力を確保。製品企画から生産・出荷までの垂直統合型ビジネスを強化していく方針だ。