その他
広がるシステム運用サービス 競争力増大が急務
2004/03/01 15:00
週刊BCN 2004年03月01日vol.1029掲載
システム運用サービスの競争力強化が求められている。これまで品質や価格の基準が曖昧だった運用サービスを、ハードウェアやソフトウェアと同じように可視化し、価値を明確にする動きが加速しているからだ。アウトソーシング化が進むなか、運用サービスの位置づけはますます重要になっている。提供コストの削減や付加価値の増大をいち早く実現したシステムインテグレータには、大きなビジネスチャンスがもたらされる。(安藤章司●取材/文)
品質・価格評価基準の適用はこれから
■SLAが品質と価値の目安に、適用が進まない面も
日本アイ・ビー・エム(日本IBM)の調べによると、平均的なユーザーのIT投資では、運用などに関わる人件費が全体の約7割に上り、ハードやネットワークは残り約3割を占めるに過ぎないという。運用サービスとは、この7割の作業を代行することで発生するビジネスである。
情報サービスのアウトソーシング化が進み、“所有から利用へ”と変化している。この動きと連動して、運用サービスビジネスが、ハードウェアやソフトウェア開発にも増して、収益力が高まってくる可能性がある。システムインテグレータは、運用サービスの競争力を高めることでビジネスチャンスが大きく広がる。
だが、ここで問題となるのが、競争力を測定するための“モノサシ”をどう設定するかである。運用サービスの品質や価値を測定するには、サービスレベルアグリーメント(SLA)の適用が最も一般的だ。SLAとは、サービスの内容や提供範囲、品質などのレベルをベンダーとユーザーの間で取り決める契約形態である。SLAの水準次第で、運用サービスの品質や価値が決まる。
日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が昨年9-12月にかけて実施した「ユーザー企業IT動向調査」(回答企業数はIT部門872社、利用部門863社、インタビュー調査50社)によれば、保守運用業務をアウトソーシングしている企業は全体の54%で、半数を超えている。しかし、SLAの厳密な適用を行っている企業は約2割に過ぎなかった。
評価基準が曖昧だった運用サービスにSLAを適用することで、ハードやソフトのようなプロダクトと同じように“可視化”できるようになる。プロダクトの「仕様書」に相当する部分が運用サービスにおける「SLA」であり、この仕様書の条件を満たさなければ価値が下がり、上回っていれば価値が上がる。システムインテグレータは、この基準をもとにして価格や品質を競うことが可能になる。
では、どうしてSLA適用が進まないのか?あるインテグレータ関係者は、「運用サービスの競争力強化は重要視しているものの、いざSLAを結ぼうとすると、万一SLAの基準を満たせなかった場合のペナルティが障害になる」と、SLAに及び腰になっていることを明かす。JUASの調査でも、「SLAの基準があり、結果責任が問われる」契約を結んでいるのは全体の6%に過ぎない。
アウトソーシング事業に詳しい日立製作所の永倉正洋・情報・通信グループアウトソーシング事業部情報ユーティリティ推進センタ長は、「SLA=ペナルティという考え方が一部に残っている」としながらも、「ユーザーはペナルティで儲けようと考えているわけではなく、あくまでも運用サービスの仕様書であるSLAを明確にし、サービス品質の向上とユーザーの利益最大化を達成することが本筋」だと指摘する。
逆に、ペナルティ規定を明確にした方が、ユーザーとの関係を円滑に進めることができるとする意見もある。日本IBMの小林正一・アウトソーシング事業部長は、「SLAはユーザーとの契約の一部である。通常、契約を履行できず顧客に損害を与えた場合は、賠償請求が発生することもある。だが、SLAであらかじめペナルティ条項を詳細に決めておけば、履行できなかった時もスムースに対応できる」と、冷静に構える。手続きが明確でなく賠償を巡って裁判に発展すれば、お互いに負担が増すだけだ。
運用サービスの競争力を高めるために、SLAは今後必須となってくるであろう。SLAをネガティブに考えるのではなく、逆にこれを活用してポジティブな方向へ進む動きも活発化している。
■システムインテグレータに競争力の差、サービス調達が官公庁に広がる可能性も
これまで運用サービスは、コストの積み上げで価格を決定するケースが多かった。
例えば、コールセンター業務で「月100人のオペレータを東京都内で使うからいくら」という具合だ。これを「インプットによる値付け」とするならば、SLAでは「アウトプット」を評価する。同じコールセンター業務を例にとれば、話し中の比率や1次回答率を規定し、この率を達成すれば報酬を得られる。
この点に、システムインテグレータの競争力の差が表れる。SLA基準さえ満たせば、ITを駆使して業務の効率を高めたり、事前にウェブでのQ&A、FAQといった情報公開や講習会などを開催してコールセンターにかかってくる電話量そのものを減らしたりと、創意工夫した企業がより高い収益を上げられるようになる。
また、SLAの水準次第では、新品で高性能なハードや最新バージョンのソフトでなくても対応できるケースもある。中古のハードや既存のパッケージソフトを活用してコストを抑えつつ、SLA基準を満たすなど、システムインテグレータのアイデア次第でビジネスの可能性が大きく広がる。
インプットからアウトプットへ評価基準が移ることで、システムインテグレータは自前の経営資源とアイデアをフル活用し、運用サービスでより高い収益を得られる可能性が出てくる。また、こうした企業間競争の促進により、運用サービス産業全体の発展も期待できる。
民間企業だけでなく、官公庁でも同様の動きが出てきている。官公庁市場に詳しいNECの本廣隆之・第一官庁ソリューション事業部事業推進マネージャーは、「情報システムのオープン化が進むに従い、ハードウェア、ソフト開発、運用サービスそれぞれ切り分けて調達することが可能になる。運用サービスがアウトソーシングされれば、SLAに基づく“サービス調達”が官公庁でも急速に増える可能性がある」と分析する。
「所有から利用へ」、「ITプロダクトの購入からサービスの購入へ」と着実に移り変わる。この動きに対してシステムインテグレータの対応が遅れれば情報サービス産業の発展そのものも阻害される恐れすらある。これまでのコスト積算式の運用サービスの在り方を見直し、たとえペナルティがあるにせよ、その基準をクリアするだけの高い品質のサービスを低コストで提供する体制作りが求められている。
システム運用サービスの競争力強化が求められている。これまで品質や価格の基準が曖昧だった運用サービスを、ハードウェアやソフトウェアと同じように可視化し、価値を明確にする動きが加速しているからだ。アウトソーシング化が進むなか、運用サービスの位置づけはますます重要になっている。提供コストの削減や付加価値の増大をいち早く実現したシステムインテグレータには、大きなビジネスチャンスがもたらされる。(安藤章司●取材/文)
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