ユーティリティ戦略ではIT業界の先頭に立った──米ベリタスソフトウェア(ゲイリー・ブルーム会長兼CEO)が5月4日から4日間、米ラスベガス(ネバタ州)のベネチアンホテルで「ベリタス・ビジョン2004」を開催した。このイベントには、米国内だけでなく日本のパートナーも多くが参集。ベリタスが繰り返し強調するユーティリティコンピューティングにおける同社の優位性に注目が集まった。ライバル企業のユーティリティ戦略が自社製品を中心に組み立てる手法であるのに対し、ブルーム会長兼CEOは、「ヘテロジーニアス(異機種結合)なシステム環境で容易に実現できる」ことがベリタスの特徴とアピール。昨年5月にベリタスが打ち出した、「ユーティリテイコンピューティング」戦略が、どこまで完成の域に達しているか、「ベリタス・ビジョン2004」を現地取材した。(谷畑良胤)
ヘテロ環境で再構築が可能
■「ユーティリティ・ナウ」
米ベリタスの年次プライベートイベントは今年で7回目。昨年5月のイベントで同社は、ITシステムを水道やガスのように従量課金する「ユーティリティコンピューティング」戦略を発表した。今年のテーマは「ユーティリティ・ナウ」。主力であるストレージ管理やデータ保護などのソフト単体売り中心のビジネスから脱却し、ユーティリティ戦略がどこまで進展したか、「現在形」を示す場として注目が集まった。
初日の基調講演でブルーム会長兼CEOは、「ヘテロジーニアスなシステム環境でユーティリティモデルを実現する最短距離はベリタス製品にある」と、他のベンダーに比べ、顧客のシステム環境に関係なくユーティリティコンピューティングを実現できる点で「究極の柔軟性と選択肢を提供できる」と主張。社名こそ言及しないものの、競合するコンピュータアソシエイツ(CA)やEMCなどストレージ管理ベンダーとの差別化を強調した。
ベリタスは2003年5月から、ほとんどの製品で「ユーティリティ版」へのバージョンアップを完了した。クライアント/サーバーの登場やネットワークの拡大など企業内の複雑化したシステム環境は、運用管理コストの増大という問題を抱えている。これを解決する手段として、複数のソフト・ハードベンダーの製品で構築されたシステム環境でも、管理手法を簡素化できるソフトを製品化してきたのが、ここまでの1年間だ。
■ITサービス可視化の中核ソフト発売
戦略転換1年で同社が描くユーティリティコンピューティング実現へのプロセスがこの4日間で、ようやく見えてきた。第1に複雑化するIT資産を「発見」して、複雑化した分散環境のリソースを「統合」する。その管理手法を「標準化」して、複数ベンダー製品に適用すれば「自動化」が実現でき、運用コストを削減できる。最終的には、ITを従量課金の「サービス」として展開するという見解だ。
このITサービスを可視化する中核ソフトが昨年11月に発表した「コマンド・セントラル・サービス3.5」。5月4日には、このバージョンアップ版「コマンド・セントラル・サービス4.0」が公表された。同ソフトは、オンラインストレージ、データ保護、サーバーとクラスタの容量や使用状況、コストなどの情報を一元管理できる。
また、この日は新たに関連するファミリー製品として、同社のSAN(ストレージエリアネットワーク)管理ソフトと通常のストレージを管理するソフトを統合し、オンとオフラインのストレージ管理を定量化して課金できる「コマンド・セントラル・ストレージ4.0」と、クラスタの表示と運用のコントロールを集中化する可視化ソフト「コマンド・セントラル・アベイラビリティ4.0」を発表した。ブルーム会長兼CEOは、「投資対効果から、ストレージがユーティリティに一番近いリソース」と、ストレージ管理からユーティリティ化を図ることを勧める。
同社は昨年、ユーティリティ戦略を推進するため、積極的に企業買収を繰り返した。昨年6月には、アプリケーション・パフォーマンス管理ソフト「i3」をもつプリサイス・ソフトウェア・ソリューションズも買収し、「ベリタスi3」として製品化している。今年1月には、アプリケーションの仮想化技術「アップスケール」をもつEjasent社を買収。ブルーム会長兼CEOは、「買収が主目的ではないが、当社ユーティリティ戦略を具現化する上で必要な協業や買収は積極的に行う」と、今後も豊富な資金力を投じ新たな製品ラインアップに向け精力的に動く方針だ。
「コマンド・セントラル・サービス4.0」のファミリー製品については、「05年末までに自動車のダッシュボードのように分かりやすくラインナップする」(ブレンダ・ザワツキー・プロダクトマーケティング担当バイスプレジデント)と、製品ロードマップを示す。まずは今秋にも、昨年4月に買収したジャレバ・テクノロジーズのサーバー管理の効率化を図るプロビジョニング(ニーズに応じサービスを振り分ける技術)を利用したソフト「ベリタス・オプフォース」を改良し、「コマンド・セントラル・サーバー」(仮称)を発表する見通しだ。今回リリースおよび会見などで公表された製品の日本国内でのアップデートは未定だが、「日本でのリリースは半年前後遅れる」(ブルーム会長兼CEO)としている。
■既存のシステム、環境利用を提唱
2日目には、ベリタスのイベントで恒例となっている映画パロディで製品を紹介するジェレミー・バートンCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)が登場。「今の企業のIT管理には、オートメーションの仕組みがない。労働集約型のマニュアル作業が多く、IT担当者の負荷は増大するばかりだ」と、この管理手法を1つに簡素化できるのがベリタスの戦略の特徴だと強調した。
IBMやヒューレット・パッカード(HP)などのハードウェアベンダーなどが志向するユーティリティ戦略が自社製品のサポートを優先して戦略を構築するのとは基本的にスタイルが異なる。つまり「本質的に考え方を異にする」(ブルーム会長兼CEO)というのが同社のユーティリティ戦略の“売り”。IBMやHPなどのユーティリティ戦略が、自社のメーカー製品で大半を組み合わせてシステム構築する「プロプライエタリ型」なのに対し、ベリタスは既存のシステム環境をそのままに、ベリタス製品を乗せることでユーティリティコンピューティングを可能にする点で、他社とは一線を画している。
同社と協業するネットワーク管理の米ネットワーク・アプライアンスのトム・メンドーザ社長は、「ストレージは、素早いバックアップ体制とシンプルな管理が重要。ベリタス戦略により、企業のストレージ管理の複雑性から解放される」と、ベリタス製品の優位性を語る。
ベリタスの2004年度(04年12月期)第1四半期(1-3月期)の売上高は、前年同期比24%増の4億8700万ドルで、四半期ベースで過去最高を更新した。約2億200万ドルに及ぶ営業キャッシュフローは、今後もユーティリティ戦略の推進に向けた企業買収や研究開発の費用に充当していく方針という。