電子情報技術産業協会(JEITA、佐々木元会長)によると、2003年度(03年4月-04年3月)の国内パソコン出荷実績は、台数ベースで前年度比10%増の1078万3000台、金額ベースで前年度並みの1兆6120億円となり、市場に明るい兆しが出てきた。今年度は、出荷台数で前年度比6%増の1140万台を予測。まずは、法人市場を中心に回復が期待できるとみている。しかし、低価格化の波は今後も避けられず、いかに収益性を確保できるかがメーカー各社にとって頭が痛いところ。加えて、コンシューマ市場は前年度並みの見通しにあり、パソコン市場の完全回復にはまだ課題が残る。(佐相彰彦●取材/文)
個人市場と価格下落が課題
■出荷台数は3年ぶりに前年度を上回る 法人需要増加が追い風に JEITAが発表した03年度のパソコン出荷台数1078万3000台は、3年ぶりに前年度を上回る結果となった。昨年4月の段階では、前年度比4%増の1020万台と予測していたが、今年1月に同9%増の1070万台へと上方修正。最終的には、その修正予測をも上回る状況となった。
形状別では、台数ベースでデスクトップパソコンが前年度比13%増の489万9000台、ノートパソコンも同7%増の588万4000台と伸びた。金額ベースでは、デスクトップが前年度並みの1兆6120億円と3年ぶりに下げ止まる結果に。ノートは、同2%減の9142億円と前年度割れが続くものの、B5サイズを中心とするモバイルノートが同17%増の639億円と伸長しており、ホットスポットなどのブロードバンド環境が普及するにつれ、モバイル化のニーズが高まっていることを裏付ける。
パソコン市場が回復した要因について、JEITAではIT投資促進減税が法人市場の追い風となり、2000年(Y2K)問題を機に導入されたパソコンのリプレース需要が好調だったことを挙げる。03年度第4四半期(04年1-3月)は、年度末の企業需要の増加が大きく貢献し、出荷台数は前年同期比8%増の312万5000台、金額でも同1%増の4496億円になった。
日本市場でトップシェアのNECは、国内出荷台数が前年度比4%増の270万台となり、特に「ビジネス向けが伸びた」という。また、富士通は同4%増の258万台で、「法人市場の需要が回復している」と説明する。
コンシューマ市場は、AV(音響・映像)関連機能に対する需要が増大していることで、テレビチューナーや記録型DVD搭載モデルの販売が底固く推移し、少なからず良い影響を与えているという。AV機能搭載のパソコンにより、テレビの視聴や録画など新しい用途が拡大していることが回復基調の要因、とJEITAでは分析している。
JEITAパーソナルコンピュータ事業委員会の片山徹委員長(NEC執行役員常務)は、「03年度の傾向は企業、個人とも今後も続く」とし、今年度も企業のリプレース需要の増加、個人ではAV機能搭載モデルの需要が増えると強調する。JEITAでは今年度の国内出荷予測を、台数ベースで前年度比6%増の1140万台と見込む。
■動き鈍い個人需要、影響大きいデジタル家電 長らく低迷をかこっていたパソコン需要に、ようやく薄日が差し始めたことは間違いないだろう。だが、かつての成長期とは市場環境が異なるだけに、手放しで喜ぶには懸念材料も少なくない。
JEITAパソコン幹事会の木村政孝幹事長(日立製作所ソリューション統括本部統括副本部長)は、「03年度は企業需要がけん引したが、個人需要は前年度を若干超えた程度」と、個人需要の戻りの鈍さを指摘する。
「(販売店サイドでは)デジタル家電の需要拡大に合わせて、パソコン需要も増えるという期待値が高くなっている。このため、前年並み程度の結果では、販売店は満足できてないのではないか」と木村幹事長はみる。だが、むしろパソコン専門店および家電量販店の間では、デジタル家電機器の好調さに押され、パソコン販売が厳しい状況に追い込まれているといった見方のほうが強い。
JEITAではAV機能搭載モデルなどの需要が引き続き増えるとみるものの、市場規模を大きく押し広げるだけの勢いがあるかどうかは疑問だ。
この点、木村幹事長も「薄型テレビやDVDレコーダーなどパソコン以外でも魅力のある製品が増え、消費者が可処分所得をどう使うかという点で、目移りする可能性が高い。デジタル家電が競合するとはいえないものの、パソコン市場に何らかの影響を与えることは確か」と認める。
消費者の財布のヒモは固いことから、デジタル家電が勢いづけば勢いづくほどパソコン販売が伸びない可能性もある。それだけに、「パソコンの魅力を強調し、いかに拡販できるかはパソコンメーカー各社の腕の見せ所」(木村幹事長)ともなる。
加えて、価格の下落が依然として続いていることが、各社のパソコンビジネスに不安材料として横たわる。03年度第4四半期(04年1-3月)のパソコン平均単価は14万4000円と、前年同期の15万3000円に比べ9000円下落した。03年度第3四半期(03年10-12月)と比べても2000円下がっている状況だ。
実際、03年度の出荷台数は伸びたものの、金額は前年度並みだった。木村幹事長は「5%程度の下落があるのではないか」と、今後も価格下落の傾向が続くことを示唆する。
法人向けパソコン出荷は伸びたものの、コンシューマ市場における伸びの鈍化、低価格化がなおも続いていることから、市場が完全回復に転じたとは言い切れないのが現状だろう。
メーカー各社にとっては、個人の購入意欲を高める販売戦略や価格下落に対応した利益構造のさらなる変革など、懸念材料をどこまで払拭できるかが事業活性化のカギを握るといえる。
 | 大手メーカー、法人市場で出荷増に | | | 2003年度における大手パソコンメーカーの国内パソコン出荷台数は、NECが前年度比4%増の270万台、富士通が同4%増の258万台となった。両社とも企業向けのパソコンビジネスが6割程度を占め、個人向けビジネスより高い。過半を占める企業需要が増えたことが出荷台数増をけん引した。 一方、コンシューマ市場がパソコンビジネスの中心であるソニーは、同15%減の110万台と前年度を下回った。こうした点からも、コンシューマ市場の伸びが鈍化していることがわかる。 |  | しかし、同社は海外での出荷が同17%増の210万台となり、ワールドワイドでは同3%増の320万台と伸びた。これに加え、低価格路線に走らなかったことで利益は確保できたもようだ。 今年度の国内出荷台数については、IT投資促進減税により企業のリプレース需要がますます増大するとみて、NECが280万台(前年度比4%増)、富士通が275万台(同11%増)と引き続きプラスを見込む。ソニーは、パソコンのAV機能を簡単に操作できるモデルの発売など、AVとITの融合をさらに加速させることで120万台(同9%増)と3年ぶりの増加を目指す。 | |