宮城県桃生郡矢本(やもと)町は、人口3万2108人(2004年3月末)で、一見平凡な田舎町である。しかし、ITを活用した町づくりでは、全国でも例のないユニークな施策を次々と打ち出している。たとえば、2000年には全国で初めて議場にパソコンを導入すると共に、「マルチメディア研修センター」として町民に開放、年間約50回のパソコン講習会を開催してきた。この5月30日には、「矢本ふれ愛 情報プラザ」をオープンしたが、これは「全国でも5指に入る規模と内容」(小山直美・矢本ふれ愛情報プラザ所長)を持った施設である。ITによる町づくりを目指す矢本町の試みを追った。(石井成樹)
ユニークな施策次々打ち出す
■1999年 情報化基本計画策定
矢本町の情報化の経緯を簡単に追うと、1996年には、役場内にパソコンを本格導入、庁舎内LANを構築した。
00年には、「矢本町情報化基本計画」を策定したが、これは矢本町が目指す新たな町作りのステージである「長期総合計画第二次基本計画」の一環をなしている。「矢本町の長期総合計画を実現する上で、強力な手段としてITを積極的に導入活用することを意思決定、具体的な目標を設定した」(小山所長)のが情報化基本計画である。
■全職員にパソコン研修 25項目の目標を設定したが、「最初にもっとも力を入れたのは全職員がパソコンを使えるようにする」という点だった。
96年からパソコンを本格導入していたが、平成11年の時点では、職員へのパソコンの貸与状況は49%と低く、ワード、エクセルを行政事務として使える職員は約37%しかいなかった。高額なパソコンを導入する前に職員のスキルを上げることが重要課題と考え「町長以下全職員が退庁後中学校のOAルームを利用し12時間のノルマと到達点を定めパソコンを使えるようにするために研修会を開催した。AからFまでのランクを設け、C以上を目標にした。今では、こと職員はCランク以上になっており、Aランクの人間も10人ほどいる」という。
■議場にパソコン導入、講習会に開放
もう1つ大きな目標としたのが、「議場へのIT設備の導入」だった。
「町民に開かれた議会を目指して、議場にパソコン、カメラ、大型スクリーンを導入、インターネットによる議会のLIVE配信を目指した。コミュニティセンターや町内5か所の公民館に大型スクリーン投影システムを設置、お茶を飲みながらどんな論議がなされているのか、見学・傍聴ができるようにした。もちろん家庭にパソコンを持っていれば、家庭で議会中継を見ることができる。ビデオ配信もしているので、過去の議会を見ることも「可能」なようにしたのである。
議会へのパソコン導入は、職員に続いて議員にも率先垂範してパソコンを使ってもらいたいという狙いがあったが、実は議会というのは年間約60日しか開催されない。せっかく導入したのに300日も遊ばせておくのはもったいないという議論が起こり、議場をIT研修センターとして町民に開放することにした。
01年10月1日から「マルチメディア研修センター」の名前で供用を開始したが、「年間50教室ほどのパソコン講習会などを開催してきた」という。
そのほか、公共施設のネットワーク接続にも非常に力を入れており、小中学校、図書館、公民館、保育所など「公共施設のネットワーク接続は完成した」段階に入っている。
また、矢本町ホームページの再構築も図り、「見るホームページから、『使う』、『参加』するホームページを目指している」という。
■全国5指に入る情報プラザオープン
「05年度には電子自治体が本格的に動き出すことになっている。そのための体制整備を色々進め、職員のITリテラシー向上、汎用通信基盤の整備、各種システムの導入など順調に進んできた。残された問題は町民全体のITリテラシー向上だが、議場を使ったマルチメディア研修センターだけでは対応できないなと考えている時、旧桜井酒造店さん跡地の寄贈が持ち上がった。ここが利用できればいろんな活動ができると思いまとめたのが『IT生きがいふれあい支援センター』構想だった」と小山所長。
02年度には総務省から補助金を得られることも決定、酒蔵をそのまま利用したり、新築の建物を建てたりして完成させたのが「新しい矢本の情報・交流拠点となる矢本ふれ愛情報プラザ」である。
大きくは3つのコーナーに分かれている。酒蔵だった土蔵を改装したのが「生きがい研修センター」で、IT研修を実施する。「大型ディスプレイの導入、車いすのままでの移動など、とくに高齢者や障害者を意識した作りとした」という。
5月6日に「IT講習会第一弾はシニア(55歳以上)コースです」と役場のホームページで発信したところ、20人ずつ3回のコースが2時間足らずで全部埋まってしまったという。
「テレワーク作業室」は、石蔵および土蔵を改装、高齢者や障害者のテレワーク作業者が作業を行うためのスペースなどを設け、点字の入出力、50音キーボードなど、特殊な入力装置なども多数用意した。
「ふれ愛情報プラザ」は新築で、「ふれ愛」、「ひびき愛」、「まなび愛」と3つのコーナーに区切り、映像取り込み、音声付きなどの高度なデータ作成、編集が行えるブースもある。
「町民あげて住みやすい町づくりを目指しているが、近隣市町村の人口は減り続けているのに当町だけは増加を続けている。ITによる町づくりによりさらに住みやすい環境を整えていく」というのが小山所長はじめ、全職員の決意だという。
 | | 矢本町の概要 | 矢本町は、仙台から仙石線快速で約1時間、宮城県の東部、石巻市の西側に位置する。昨年7月26日に発生した宮城県北部連続地震の震源地は同町の直下だったとされ、住民用家屋の全・半壊は3300棟におよんだ。 ブルー・インパルスの編隊飛行で知られる航空自衛隊松島基地は同町にある。 西隣の鳴瀬町と合併することが決定、新市名は「東松島市」となる。 | |